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なぜ日本の首長にポピュリストが多いのか

 ポピュリズムに話を戻せば、冒頭のジョンソン首相やトランプ大統領、ブラジルのボウソナロ大統領など、諸外国では国政レベルでのポピュリズム政治家が目立つのに対して、日本のポピュリストは地方の首長であることが多い。例外は小泉純一郎元首相だが、彼を除けば、田中康夫元長野県知事、石原慎太郎元都知事、橋下徹前大阪府知事・市長、河村たかし名古屋市長など、これまでポピュリスト政治家とされてきたのは全て地方政治のプレーヤーだ。

 日本でなぜ地方レベルのポピュリストが多いのかには理由がある。ひとつは日本の地方政治が「二元代表制」と呼ばれる、民意を代表する首長と議会という2つの回路を持つ制度によって運営されるためだ。定数1の選挙区を持つのは大都市のみであり、それも東京都の場合は千代田区と中央区のみだ(島部・市部除く)。その他の市町村の選挙区の定数は概ね2から6が定数と議会が比例代表制をとるのに対し、首長選挙は大きな単一の選挙区(すなわち小選挙区)で選ばれる多数代表制のもとで行われる。

 こうした非対称性がある場合、議員候補者は特定業界や組織に応援されて「狭く堅い民意」を代表する傾向があるのに対し、首長は大票田の集まる都市部の無党派層からなる「広く薄い民意」を代表しなければならない。従って、首長にとっては既得権益や議会を批判して選挙戦を戦うのが合理的になる。

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 ポピュリズムの定義は多様で、一般的には政治・経済エリートに対して庶民と呼ばれるものたちの民意を代表する政治スタイルとされるが、日本の首長はポピュリスト政治を培養しやすい土壌にあるのだ。

“ポピュリスト政治家”のひとり、橋下徹前大阪府知事・市長 ©AFLO

 さらに二元代表制のもとでは、日本の首長はアメリカの州知事と同じように、大統領的な政治を行うことが可能になる。議会解散権や条例への拒否権、独自に条例を制定することも可能だ。さらに2017年の地方自治法改正によって、福祉サービスや飲食店営業許可の事務も担うようにもなり、大きな権限を手にするようになった。

 コロナ・パニックのような危機時においては、歯切れよく、毅然とした態度を示す首長の存在感が必然的に浮上することになる。そして、ポピュリズム政治がエリートに対する庶民の声を代表するものだとすれば、日本の首長は、法的権限に欠き、財政赤字に苦しんで弱い政策しか打ち出せない政権与党を仮想敵とすることで、住民の支持を集められる。

 つまり、北海道の鈴木知事、大阪の吉村知事などが休校措置などを含む緊急事態宣言を独自に出し、危機事態の「競り上げ」を行っているのには政治的な理由もある。政権支持率低下と反比例するかのように、彼らの支持率もまた小池知事とともにあがり、政府は背中を押されるようにして4月16日に全国規模での非常事態宣言に踏み切らざるを得なかった。他国と違って、政権の支持率がなぜ下がっているのか、そして首長たちの支持率がなぜあがっているかのひとつの説明になるだろう。

 トランプ大統領のように支持率が上昇している例でも、例えばコロナ対策の陣頭指揮に立つニューヨーク州のクオモ知事も実に87%と支持と不支持率を逆転させている(シエナ大学調査)。