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危機時に与党を信頼しがちな有権者たち

 政治情勢を示す英語に「旗下集合効果(rally round the flag effect)」というものがある。これは、危機時にあって、現政権の指導者を支持する態度が有権者の間に広がる現象を指す。

 国難にあっては党派を超えて政権を支えることが有権者の責務であるという意識に加え、政策に多少の不満があっても、危機管理対策では野党よりも与党に信頼が寄せられる。野党にかけるリスクよりも、現職を応援してリスクを減らし、安全を取ることが合理的だからだ。

 例えば、2000年に僅差で民主党候補アル・ゴアに競り勝ったジョージ・W・ブッシュ大統領は決して人気のある大統領ではなく、在任期間の平均支持率は49%に過ぎなかった。しかし、2001年の9.11同時多発テロを受けた直後には86%という、米憲政史上で最高の支持率を記録している。2015年にパリで130人余りの犠牲者を出した同時多発テロでも、任期中の平均支持率が約20%の史上最低記録保持者だった時のフランソワ・オランド大統領の支持率は直後に最高の支持率(35%)を記録している。

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 だから、支持率上昇の恩恵に浴しているのはポピュリスト政治家だけではない。ドイツのメルケル首相、フランスのマクロン大統領、イタリアのコンテ首相など、それぞれの絶対的な人気の度合いは異なれども、コロナ・ショックを受けて支持率の上昇をみている。

ドイツのメルケル首相 ©JMPA

 ちなみに、メルケル首相のドイツをはじめ、台湾、ニュージーランドなど、コロナ・ウイルス封じ込めに一定程度成功していると評価されている国のリーダーは女性であることが多いことも特徴的だ。

有権者は政策で評価しない

 少し前に政治学者の間で話題になった『現実主義者のための民主主義』という本がある(エイカン=バルテルズ著、2016年〔未邦訳〕)。この研究は、過去のアメリカの有権者行動を解析して、いかに有権者は時の政権の政策や業績を考慮しないで投票しているのかを実証したものだ。

 自然災害やインフルエンザの感染など、政権とは関係ない出来事がその責任とされたり、直近の経済情勢だけが考慮されたりする一方、歴史的な転換となるような時の政権の政策が評価されないことが多いという。例えば、1916年にニュージャージー州でサメによる襲撃事件が有権者の不安を煽った結果、その選挙区での与党候補に不利になったという印象的なエピソードを著者は紹介している。