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毅然とした態度と無責任さは紙一重

 もっとも、以上はポピュリスト政治家がコロナ・ウイルス対策で最も有効な対策を打てていると言っているわけではない。トランプ大統領も、ジョンソン首相も、当初は経済への悪影響を懸念して、集団免疫の獲得によってウイルス封じ込めを目論み、見事に失敗したことを想起すべきだ。休業要請をする日本の知事にしても、財源に欠く東京都以外は国の財政に依存しなければならない。毅然とした態度は無責任さと紙一重になり得る。

ロックダウンにより人通りが絶えたロンドン ©iStock.com

 世界には、ハンガリーのオルバン首相や、イスラエルのネタニエフ首相のように、コロナ・パニックを奇貨として議会の機能までを一部停止し、それまでの強権をさらに強めようとしている指導者もいる。ポピュリズム政治によって人々の不安感は払拭できるかもしれないが、それでもってワクチンが開発されたり、目前に迫る大不況が解決されたりするわけではない。言い換えれば、現在のポピュリズム政治を作り上げているのは、私たちの漠然とした不安感なのだ。

 有権者は合理的ではないかもしれないが、歴史をみると、危機時に輝いた指導者が有権者からお払い箱になる時もある。ナチスドイツとの闘いでイギリスを勝利に導いたチャーチル首相は1950年代に二度目の首相の座を降りることになったし、フランスを解放したドゴール将軍は1960年代に自身が提案した国民投票を否決されて引退した。

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 平時に戻った時、有権者にどのように判断されるのか――政治指導者の真価はその時にこそ試されるべきなのだ。

感情の政治学 (講談社選書メチエ)

吉田 徹

講談社

2014年8月12日 発売

 本稿に関わるオンライン上で読めるものとして「座談会:デモクラシーの変容をポピュリズムから読み解く」 や「Populism “made in Japan”: A new species?」がある。