行き場のない私たちの「言ってやりたいこと」
或いは、同じシーズンの次のエピソード。主人公でコラムニストのキャリーが、やや面倒くさいけどキュートな作家の彼に、ポストイットの伝言でフラれ、気晴らしに出かけたクラブでその彼の友人に出会う。ポストイットで別れを告げる男なんて怒るのもバカらしいと思っていたが、彼の友人の「そもそもいい別れ方なんてないじゃないか」という言葉に激昂し、溜め込んでいた怒りを早口で爆発させるその痛快な場面も人気だ。これもまた、私たち、こちらに怒りを伝える機会も与えずに去っていった数々のくだらない男たちへの行き場のない「言ってやりたいこと」を思い出して泣き笑いで味わう。
そんな風に、男と女のクソみたいな日常と歴史を全94エピソードと映画2本に詰め込んだこのドラマは、色々な楽しみ方ができ、だからこそ今でも数多の女たちに愛され、繰り返しことあるごとに観かえしているうちに、かつて10以上年上だった登場人物たちが同い年になり、いつのまにか年下になっているような現象が起こる。
街に繰り出せない今だからこそ
さて、新型コロナウイルス感染拡大による政府の緊急事態宣言を受け、気軽に旅行や飲み会に出かけられなくなり、かといって自宅内に日々成長するような愛らしいエンタテイメントも、日々一緒に歳を重ねるような愛しいエンタテイメントもない独身女たちは、己の選んできた道を振り返り、どうにもクサクサしている。もちろん、恋をすることも愛する人を想うこともできるけど、一緒に街に繰り出すことはできないし、いい男を探しに女同士で夜遊びをすることすら禁じ手。
このドラマは文字通り、ニューヨークという街と男女の恋愛とセックスがテーマとなっている。恋愛コラムニストの主人公は、一度、全く恋愛やセックスがご無沙汰な時に、「これじゃあ連載コラムのタイトルを、「◯◯・アンド・ザ・シティ」に変えなきゃいけないわ!」と嘆く。たしかに恋愛やセックスは時折女たちから遠ざかるが、街は常にそこにあった。しかし、まさか新型ウイルスのせいで、全世界が「セックス・アンド・ザ・◯◯」状態になるなんて誰が予想しただろう。さらにセックスや恋愛もしなければ、もはや「◯◯・アンド・ザ・◯◯」で私たちの手には何もない。そりゃクサクサするわけだ。
セックスご無沙汰状態でSATCを観るとしたら、「神」な回はきっとシーズン4でキャリーがジャズミュージシャンと脳がふっとぶほど刺激的なセックスをするエピソードや、シーズン2で、シャーロットがセックスの最中に相手が居眠りをしたことを気に病んでテクニックを磨くエピソードになるだろう。
では「ザ・シティ」の方がご無沙汰状態の今、「神回」を決めるとしたらどうだろうか。ベスト3を考えてみた。