新型コロナウイルスの感染者数、死者数が世界最多となっているアメリカは、感染者数が100万人を上回った(4月29日時点)。ニューヨークを象徴し、一世を風靡したドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ(SATC)」のメインキャストがポッドキャスト番組で、SATCのファンだという医師に「あなたたちなしでは前に進めません。皆、あなたたちと心は一緒にいる」とエールを送ったことも報じられた。

「セックス・アンド・ザ・シティ(SATC)」のメインキャスト。左からクリスティン・デイビス(シャーロット)、サラ・ジェシカ・パーカー(キャリー)、シンシア・ニクソン(ミランダ)、キム・キャトラル(サマンサ) ©ロイター/AFLO

「どんなに愛する街でも、しばしの別れをしなくてはいけないことがある」――ショウウィンドウの明かりも消えた東京から、作家で社会学者の鈴木涼美さんが、今だからこそ観たいエピソード3選を紹介する。

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あらゆる世代の女性に愛されてきた「SATC」

 世界中でヒットし、日本をはじめ各国でマノロやジミー・チュウなどの靴ブランドが一気に認知されるきっかけともなった「セックス・アンド・ザ・シティ」は、米国での全6シーズンの放送が終了して15年以上たった今でも、各世代の女性に愛されている。高校生から大学生の前半に放送時期が重なっていた私はまさにメガヒットした世代で、同世代の友人との喩えばなしや飲み会のネタにドラマ内のエピソードが登場することは未だにある。

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 年齢によって好きなエピソードや登場人物も変化してくるようで、30歳を過ぎてから、私の周囲では、シーズン6の6話“Hop, Skip, and a Week”で主要登場女子4人のうちの一人である元美術商のシャーロットが、ユダヤ教に改宗するほど入れ込んだ離婚弁護士のハリーとシナゴーグのシングルナイトでよりを戻すシーンに人気が集まる。

 結婚して子供をつくることを何より望んでいたシャーロットは一人のスコットランド系のマザコン医師と痛々しい離婚を経験し、ブサイクで粗野なハリーと恋に落ちる。ユダヤ人同士でしか結婚できないという彼のために改宗し、いよいよ結婚にジリジリ気合いが入る彼女だが、彼の見た目やタイプは自分にそぐわない、自分らは不釣り合いだと感じていた。結婚に焦る彼女は喧嘩でつい「あなた自分が私を手に入れてどれだけラッキーか分かってる?」と口走ってしまったせいで破局。しかし失ってから改めて彼の大切さを実感し、偶然再会した彼に「結婚なんてしてくれなくてもいい。あなたといられたら私の方がラッキーよ」と伝え、二人は復縁。その場でプロポーズされる。

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 私たちは何も、感動の再会や幸福のピークであるプロポーズの瞬間に見入っているのでは多分ない。30歳すぎてピッキーで口が達者で人を見下し、ついついビッチな振る舞いをしてしまう普段の自分を猛省し、おこなってきた様々な愚行と下してきた様々な決断を呪詛し、歳を重ねる毎に無様に着込んできた言葉の鎧を脱ぎ捨てて素直になればきっと私の笑顔もこれくらいキラキラ輝く、と勝手に妄想して盛り上がっているのだ。