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吐血と発熱は何が原因だったのか?
Mさんの父はおそらくかかりつけの病院で心疾患に関して注意を受けていたはずであるが、医者の言うことを深刻に受け止めず、難しい病名は覚える気がなかったのか、心臓が悪いことをあまり自覚していなかったようだ。
では、吐血と発熱はいったい何が原因だったのか。監察医はこう説明した。
「終末期によくみられる症状として、出血や痛み、疲労感、咳、息切れ、発熱などがあります。発熱は、お別れの前に身体が頑張っている結果、起こることです」
母は10年前に首を吊って自殺した
Mさんは父の死を冷静に受け止めていた。何故ならその前に母の死を経験していたからだ。
Mさんの母は10年前に自殺した。リビングと廊下を隔てるドア上部のストッパーにネクタイを括りつけ、首を吊ったのだ。ストッパーは折れ、母は息絶えた状態でネクタイを首につけたまま、廊下に横たわっていた。
母が死んだ理由は家族には理解できなかった。つい前日まで当たり前のように、いつもの母だったからだ。手帳には歯医者の予定も書き込んでいた。もちろん遺書もない。ただ、当時69歳だった母は骨粗しょう症を患っていた。
母は結婚してから、職人肌で亭主関白な父の一切の面倒を見てきた。預金通帳からお金も下ろせないような父に、老いを感じた自分が世話になんかなってたまるかと、そう思っていたのかもしれない。