新型コロナウイルスの世界的流行のため、2021年7~9月に延期された東京2020オリンピック・パラリンピック大会。国際オリンピック委員会(IOC)と日本政府は延期合意から1カ月が過ぎても、誰がいくら追加費用を負担するかでもめている。延期ありきがまかり通るオリンピックという名のスポーツ・ビジネスの欠陥がまた明らかになった。
日本政府は追加費用の合意について否定したものの
「どれぐらいのコストがかかるのか、現時点では明らかになっていない。誰が、どのくらい払うかも議論されていない。まだ追加費用、負担が決まっていない、積算されていない」。
東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の武藤敏郎事務総長は4月23日のインターネット会見で追加費用について見解を示した、とメディアが伝えた。
IOCがその3日前、ウェブ上に掲載した「よくある質問」(FAQ)で、追加費用について、「日本の安倍晋三首相は、既に合意した現行の契約条件下、引き続き日本側が負担することで合意した」「(IOC側の負担は)数億ドル」などと掲載。延期決定直前まで通常開催にこだわった安倍首相が追加負担を密約していたのかと、 IOC の FAQ に世界中のメディアは色めき立った。
日本政府は合意を即座に否定し、組織委を通じて追加負担に関するFAQ削除を要求。武藤氏も改めて合意を否定し、論拠として追加費用の金額そのものが不明と言い切った。
IOCは4月21日、「IOCと日本側は、延期によって引き起こされる影響を共同で評価し、議論し続ける」とFAQを修正。安倍首相の負担合意やIOCの負担額を削除した。この文脈で、安倍首相の追加負担合意を否定したのが武藤発言と、多くのメディアは軽く流した。
追加費用が不明なまま、延期を決めたことが明らかに
だが、武藤氏の発言内容は問題だ。要は日本政府もIOCも、いくら費用がかかるか不明なまま、オリンピック延期を決めた事実を大会の責任者が認めたことを意味するからだ。オリンピックの興行主として特権を持つ IOC 、オリンピックのためなら税金を湯水のように使える日本政府、いずれ劣らぬ無責任体質が招いた大失態だ。
IOC の特権とは、オリンピックの開催都市との契約で、財政負担を負わないことだ。組織委や開催都市が赤字になれば、政府が債務保証するよう求めており、実際に日本政府は IOC に債務保証している。拙著「オリンピック・マネー」(文春新書)で、このカラクリやテレビ放映権料などの巨額の収益メカニズムを詳述しているが、 IOC は徹頭徹尾、損をしない仕組みなのだ。
例えるなら、加盟店への優越的な立場が問題となった大手コンビニエンスチェーンのようなものだ。 IOC というフランチャイザー(本部)が利益を確保したうえで、開催都市というフランチャイジー(加盟店)が五輪ブランドの下で競技を運営する。これがオリンピックという名のスポーツ・ビジネスなのだ。「平和の祭典」「スポーツの祭典」という美名は、どん欲なビジネスモデルの飾りに過ぎない。