2019年5月1日に天皇陛下が御即位されて1年ーー。
 新皇后の半生を徹底取材した決定版を140枚余の胸打つ写真とともに再構成した『皇后雅子さま物語 ビジュアル版』(文春ムック)から、令和の皇后のこれまでを特別公開します。  

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淡いピンクとレモンイエロー、2着の絹のワンピース

 その日の午前は、朝から青空が広がっていた。東京・目黒区南の小和田邸には、出来上がったばかりの2着のワンピースが届けられた。1993年(平成5年)1月上旬のことである。

 1階のリビングに集まっていたのは、小和田雅子さん(29=当時、以下同)と母親の優美子さん(54)、久しぶりにベトナム・ハノイから帰国した妹で次女の礼子さん(26=国連難民高等弁務官事務所職員)、洋服デザイナーの角田明美さん(62)とスタッフたちだった。

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 ソファの上に並んでいたのは、急いで仕立てられた絹の2着のワンピース。ひとつは淡いピンク、もうひとつは、レモンイエローだった。ワンピースのデザインはどちらも同じで、襟がなく腰のところで切り替えがあった。来客によると「同じデザインなのに色が違うだけで、とても雰囲気が違って見えた」という。

1993年1月19日、東宮仮御所での婚約内定記者会見

「どちらの色もいいわねぇ」

 いつも明るい礼子さんは、まるで自分のことのように声を弾ませていた。一度、別室に行った雅子さんがピンクのワンピースを試着し登場した。皆が「とてもお似合いね」と見惚れる。はにかむ雅子さんに皆が黄色のワンピースも着るように勧めた。

 別室で着替えた雅子さんに優美子さんが、「黄色もいいわね。春らしくて、希望の色という感じね」と語りかけたという。

「じゃあ、黄色にするわ!」と輝く笑顔を見せて

 そこへ父親の外務事務次官の恆氏(60)が帰宅した。すかさず礼子さんが、

「お父さまは、どちらが似合うと思う?」

 と声を掛けると、最初、恆氏は照れ笑いしながら通り過ぎようとした。

 しかし追い打ちをかけるように、礼子さんが「ねえ、どちらがいいと思う?」と聞くと、恆氏は困ったような恥ずかしいような微妙な顔をして、「いま着ている黄色の方でいいんじゃないのかな」と答えた。

 雅子さんは、その言葉を聞いて「じゃあ、黄色にするわ!」と輝く笑顔を見せて言った。

 だが、こうして選ばれた黄色のワンピースには、一般の花嫁にはない大きな意味があった。数日後に皇太子の婚約者として、初めて国民の前で語る記者会見の際に着る衣装でもあったからだ。会見は国内外のテレビでも生中継される予定である。

 それは、国民が長く待ち望んだ皇太子妃、民間から嫁ぐ2人目のプリンセスが全国に向かって語りかける、初めての場だった。

 同時に一人の女性がプリンセスとしての第一歩を踏み出し、国民からの期待を背負う始まりでもあった。