あの日選んだ「黄色のワンピース」で
藤森昭一宮内庁長官による婚約の正式発表は、10時半から始まった。
「本日8時半から開催の皇室会議の儀を経て、皇太子徳仁親王は小和田雅子嬢と婚約されることになりました。天皇皇后両陛下はとてもお喜びの様子で、尽力された職員の皆様にどうかよろしく伝えていただきたいとのお言葉を陛下よりいただきました」
街頭の電光掲示板には、婚約の正式決定を伝えるニュース速報が躍った。銀座のデパートはご婚約を祝う垂れ幕を下し、小和田家のルーツがある新潟県村上市では花火が打ち上げられた。
午後12時頃、黒塗りの公用車に乗った東宮侍従が小和田邸に到着した。10分後、雅子さんは家族に見送られながら自宅玄関に姿を現した。あの日選んだ、黄色のワンピース姿だった。花の飾りのついた共布の帽子とコートを合わせていた。手元のバッグも靴も同じ色、真珠のネックレスとイヤリングに白い革製の手袋姿だった。笑顔を見せる雅子さんに、カメラのシャッターが一斉に切られた。
「自分でいい人生だったと振り返られるような人生に」
午後2時45分、東宮仮御所の会見場に、皇太子と雅子さんが姿を見せた。一礼して笑顔で着席すると、カメラのシャッター音が長く響いた。
皇太子がむかって左に、雅子さんは右の席に浅く腰掛けた。両手は黄色のバッグの上に置かれたまま動かすことはなかった。
まず皇太子が喜びを語った。
「私の申し出を受けてくれた雅子さんに対しても、心から感謝したいと思っております。これからは力を合わせて、さまざまな務めを果たしていきたいと思っております」
続いて語り始めた雅子さんには、緊張がありありと浮かんでいた。伏し目がちな視線は固く、口元もやや強張っていたが、言葉は明瞭だった。
「これから大きな責任をお引き受けすることになるわけですから、身の引き締まる思いが致します。その一方で、多くの方々に祝福していただいていることを大変幸せに思いますとともに、私をお導きくださった皇太子殿下をはじめ、これまでお力をお貸しくださった方々に感謝の気持ちでいっぱいでございます」
この会見が実に率直なものだと思うのは、雅子さんがプロポーズを一度は断ったということを、皇太子自ら明かしていることだ。
「それはあの、(昨年)10月3日、千葉県の鴨場でもって、雅子さんのほうに私と結婚していただけますか? と伝えました。その時の答えははっきりとしたものではなかったわけですけれども、その後12月の12日にこの仮御所に来ていただいて、その時に(中略)受けていただいたというわけでございます」
これを雅子さんが引き取る形で、背筋を伸ばして語った。