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「コロナに打ち勝つ」にはソーシャルディスタンシングな「新しい観戦スタイル」が必要だ

文春野球コラム Cリーグ2020

真に「コロナに打ち勝つ」ための野球観戦とは

 劇場や音楽堂など公立文化施設の運営者団体である全国公立文化施設協会では、すでに文化イベント開催時のガイドラインを公開していますが、そこには「家族等の一集団と他の集団との距離が概ね2m以上となるよう座席を配置」と記されています。なるほど、国立感染症研究所による濃厚接触の旧来の目安であった2mの距離をあけるということなのでしょう。標準的なスタジアムで言うならば「同列の客と客の間を最低4席、できれば5席あける」「前後は1列飛ばしで配置する」ということになり、おひとり様が10席使う計算です。キャパは10分の1、3万人のスタジアムなら3000人。それがソーシャル座席ディスタンスの目安です。キャパはすごく少なくなります。でも、思うのです。実はそれぐらいが快適だよな、と。病気を避けるためというより、快適さのためにそのぐらいの距離が欲しいよな、と。

 従来の10倍の座席を使うとなれば3000円のチケットが単純計算で3万円ということになりますが、最初からスタンド全体が他人と区切られたボックス形式であれば、自分と自分の大切な人に限定した3人か4人で3万円という納得感のあるラインの価格のままディスタンシングできていたでしょう。今でもすでにそうしたボックス形式の個室席やテーブル席は存在し、人気を博していますが、そちらのほうが「本当は標準として望ましい形式」なのではないでしょうか。今まで頑張ってガマンしていただけで、トイレに行くのにもストレスを感じるあの詰め込み型のスタジアムを「みんなが望んでいたわけではない」はずなのです。

 毎試合行く人はさておき、1年に数回のお出掛けなら、相応の費用をかけてもできるだけ快適に過ごしたいはず。

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 コロナがあろうがなかろうが、ディスタンシングはしたい。

 そんな「新しい観戦スタイル」をメインストリームに上げ、野球観戦という体験そのものを変化させてこそ真に「コロナに打ち勝つ」だろうと僕は思います。すでに何十試合も失い、オールスターやCSもなくなり、今季は客入れ自体ができるかどうか、来季もやれるのかどうかという状態。失ったぶんを来年やるかと言ったら、そうはならないでしょう。失ったぶんはただただ失ったままになるだけ。すでにこの戦いは「負けている」のです。それを取り返すには、今までと同じではない変化があってこそでしょう。

 もちろん、3年ぐらいかけて新型コロナウイルスの問題が終息すれば再びもとのようにギチギチにお客を入れた飛沫を吸い合う観戦スタイルも可能かもしれません。しかし、新たな感染症が発生した場合、また同じように距離を取って恐る恐る観戦するような時期が生じます。2009年の新型インフルエンザによるパンデミックからわずか10年。2002年のSARS、1997年の鳥インフルエンザ、10年に一度くらいは世界規模の感染症問題が発生してきています。今後再び同じような問題が起きたときは、今のままではまた負けるのです。新たなSARSなのか、新型インフルエンザなのか、相手はわかりませんが、出てきたら必ず負けます。それもこっぴどく負けます。僕らはすでにステイホームとソーシャルディスタンシングをしないといけないと意識してしまったのですから。新たな敵が登場するたび、ワクチンか治療薬で安心が保証されるまで「3年くらい負けつづける」のです。

 安心と快適さのために、未来のスタジアム・未来のスポーツ観戦というものはあらかじめディスタンシングしている、ディスタンシングした状態でも運営が行なえるような構造へと進化していかなければならないでしょう。空間は広く、あらかじめ区切られており、そのぶん単価は高い、極端に言えば「円形ホテルの中庭で試合をする」みたいなスタジアム。それと同時に、スタジアムからあぶれた人をオンライン観戦の没入感を高めることで補っていく。そんな「未来の観戦スタイル」を作ることができたなら、ただ日常を取り戻しただけではなく、真に「野球はコロナに打ち勝った」と言えるのではないでしょうか。

 北海道日本ハムファイターズがこれから建てるという新スタジアムや、建て替えが予定されている神宮球場、そして「選手寮などを建て替えたぶん廃墟味が際立つ」「座席を付け替えたくらいではあまり変わった気がしない」「座席の印象よりもガタついた階段の印象が悪い」とファンの建て替え要望も高まっているメットライフドーム、このあたりの建て替えを視野に入れた物件ではぜひ、ディスタンシングな観戦スタイルを実現できるスタジアムを作っていただきたいもの。

 コロナに打ち勝った結果、今までよりもグッと快適になり、今までの何倍もの値段でも行きたくなるようなソーシャルディスタンシングスタジアムを。

 その一日に「未来」を感じるような観戦体験を。

 人間をギチギチに箱に詰め込むパズル大会みたいなのは、もう卒業です!

大相撲のマスA席は4人で4万6800円(※令和二年初場所の例)

 相撲などはすでに「自分と自分の大切な人だけのために区切られたマス席」をメインストリームとしています!

 まぁ、壁はないですし、1マスのサイズが1.5m×1.5mで、ソーシャルディスタンシング的には1人分相当しかないスペースに4人詰め込む地獄の狭さですが!

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