『週刊文春WOMAN』2020春号の発売を記念して、『週刊文春WOMAN』
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Q 人恋しいのに少し遠くにいてほしい《内田也哉子からの相談》
幼いころ、人と一緒にいたいと切望しているのに、家には誰もいないという寂しい思いをしてきました。今でも私は人恋しくて、でも、いざ人と会うと、会った後からドッと疲労感が襲ってきます。そのため、自分から気楽に友だちを誘うことができなくなってしまいました。
また、人が大勢いるところに行ってみると寂しい気持ちを埋められるかといえば、むしろ大勢のなかで感じる孤独のほうが辛くて、ああ、来なければよかったと後悔します。
家の1階にたとえば家族とか、心許せる誰かがいて、私はその誰かの気配だけ感じながら独りで2階にいる──これこそが最高のシチュエーションに思えますが、そう都合よくいつも1階に誰かがいて、なおかつ私をいつまでも2階に放っておいてくれるはずもありません。
どうしたら私は心の平和を得られるのかと考えあぐねています。
A「独りの空間を確保したいのだけれど、孤独は嫌だ」 はヒトの特徴 《中野信子からの回答》
「也哉子さんの気持ち、よくわかる」という方はたくさんいらっしゃることでしょう。多くの人の心にある澱を掬い上げられる、繊細さと鋭さを持ち併せた方なんだなと改めて感じます。独りの空間を確保したいのだけれど、でも孤独は嫌だというダブルバインドは不安定な感じがしてやや不快かもしれませんが、実はヒトの特徴というべき側面でもあります。
人間を含めた生物にとっての最重要課題は、自身の生命の維持です。そのために捕食し、自分の身を安全に保つ場所を確保する必要があります。このように己を利する行動は必ずとらなければいけません。
一方、食べ物や場所をシェアすれば自分の取り分が減ります。しかし、集団でいるほうが外敵に襲われる危険が逓減でき、生存できる可能性が高くなる。集団でいるメリットは大きい、となると利己の機能を少し犠牲にしなければならないわけです。孤独がストレスだというのは、つまりヒトが無意識に身を守ろうとする防御反応のようなものです。
とはいえ、集団に合わせるには利己の機能を削らなければならない。誰もがこの両方のストレスを抱えています。孤独のストレスをストレスAとし、集団に合わせるストレスをストレスBとすると、孤独を嫌う人はストレスAのほうが大きく、集団でいることを避ける人はストレスBのほうが大きいということになります。