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わたしの「神回」

2020/05/04

「おはようございます。死にました」度肝を抜かれた最終回

 最後に、やはり筆者の思い出に残る1作である『カーネーション』(2011~12年)から名場面をあげておきたい。大阪・岸和田で洋裁店を営むヒロイン・小原糸子の前半生を尾野真千子が演じたパートにも語るべき回は多いが、度胆を抜かれたのは最終回である。何と、糸子(後半生は夏木マリが演じた)は最終回を前に92歳で大往生、最終回では写真とナレーションのみという異例の登場となった。そこでは彼女が「おはようございます。死にました」とあいさつし、自分が亡くなって5年が経った後日談を語った。

2011年9月から2012年3月まで放送された『カーネーション』。ヒロインは尾野真千子(後半生は夏木マリ)

 さらに強い印象を残したのはラストシーンだ。どこかの病院で、看護師から車椅子に乗せられてひとりの老婆がロビーのテレビの前までやって来たか思えば、スイッチを入れた画面に映し出されたのは、ほかでもない『カーネーション』の第1回だった。後ろ姿のみの登場ながら、感慨深げに画面を見つめる老婆の正体は、糸子の幼馴染で、数奇な運命をたどった奈津(本編では栗山千明が演じた)ではないかと、ファンのあいだでは話題を呼んだ。

 最終回がドラマの第1回へとつながるというのは、じつは先例がある。それは朝ドラ初期のヒット作である『おはなはん』(1966~67年)だ。樫山文枝演じるヒロインのおはなはんこと浅尾はなは、晩年に著した自らの一代記がベストセラーとなり、テレビドラマ化が決まる。そしてラストは、彼女が息子(津川雅彦)と一緒に『おはなはん』の第1回を見届けるシーンで締めくくられたのだった。

 思えば、朝ドラを見続けていると、過去の作品からの影響をうかがわせることも少なくない。前出の『あまちゃん』でも、『ちりとてちん』と重ね合わせたくなる場面がたびたびあった。たとえば、ヒロインのアキたち海女のたまり場であった漁協が改築され、ステージを備えた海女カフェへと生まれ変わったのには、『ちりとてちん』の喜代美たちが師匠の旧宅を改築してひぐらし亭を開いたことを彷彿とさせた。NHKの朝ドラは昨年放送の『なつぞら』で100作を数え、来年には第1作『娘と私』の放送から60周年を迎える。朝ドラが数えきれないほどの名場面を生んできたのも、そうした過去の蓄積があってこそだろう。

『カーネーション』のヒロイン・尾野真千子 ©文藝春秋

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