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わたしの「神回」

2020/05/04

『あまちゃん』薬師丸ひろ子のあの神回

 松坂慶子は『ゲゲゲの女房』が朝ドラ初出演だった。同じくベテラン女優の名場面といえば、2013年に放送された『あまちゃん』で、薬師丸ひろ子演じる大女優・鈴鹿ひろ美が強烈な印象を残したあの回をあげないわけにはいかない。

2013年4月から9月まで放送された『あまちゃん』。ヒロインは能年玲奈
薬師丸ひろ子。アキ(能年玲奈)が憧れる清純派の大女優・鈴鹿ひろ美役を演じた ©文藝春秋

 それは最終回を間近に控えた第153回。ドラマの主舞台となる岩手の北三陸では、東日本大震災の翌年、2012年に能年玲奈(現・のん)演じるヒロインの天野アキたちの熱意により、かつて彼女がご当地アイドルとして注目された「海女カフェ」が再建された。この海女カフェの再開にあたり、アキが東京で付き人をしていた鈴鹿ひろ美がチャリティーコンサートを行なうことになる。しかし、鈴鹿の往年のヒット曲「潮騒のメモリー」は、じつは音痴だった彼女に替わってアキの母・春子(小泉今日子/青年期:有村架純)が吹きこんだものだった。

 コンサートにあたり、鈴鹿は自分の声で歌いたいと熱望し、因縁の相手である春子から特訓を受けるも、一向に音痴は直らなかった。不安を抱えながら迎えた本番、いざというときのため舞台袖に春子がスタンバイしたが、前奏が始まって、マイクの音が入らないことに気づく。しかしステージの鈴鹿は、いつのまに音痴を克服したのか、見事な美声で歌い上げるのだった。それまで劇中に幻影としてたびたび現れた若き日の春子は、このときを境に姿を見せなくなる。ドラマの背景に常にちらついていた春子と鈴鹿のわだかまりが消えた、重要な回であった。

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