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見終わった後に何度も思い返して考えさせられる

 危ない場所へ取材に行くという意味では似たような番組は他にもたくさんあるが、ハイパーハードボイルドグルメリポートはそれらとはまったく違う。メッセージの押し付けがないのだ。少なからず物を作る人にとって、どうしても「ここは泣く所です」「ここは笑う所です」というメッセージを込めたくなってしまう。そのために泣ける音楽を流して、笑えるツッコミを入れて、見る者の気持ちを誘導しようとする。こういう演出は、物を作る人はみんなやっている。もちろん私も漫画を描く時にやっている。

 しかし、この番組にはそういった演出が一切なく、観る者が自由に感じていいように作られている。だからこそ、自分の中に湧き出てくる気持ちが何なのか整理がつかず、見終わった後に何度も思い返して考えさせられる。

 そして、今回私の神回として紹介したいのは、シーズン1-1「リベリア共和国 元人食い少年兵の晩御飯」だ。

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リベリアの首都・モンロビア ©iStock.com

体を売って日銭を稼ぎ、そのほとんどが一食の食事代に消える

 誰しも新しい物を見始める時は「これは面白いのかな?」と懐疑的である。そんな人でもこの「元人食い少年兵の晩御飯」を15分も見てもらえれば、すぐにこの番組がどれだけ素晴らしいものかわかるだろう。そういう意味で、私は人にハイパーハードボイルドグルメリポートをオススメする時は、とりあえずこの1話だけを見てもらうようにしている。私が背中を押すのはこれだけで十分だ。

 10代の頃に両親を殺されたリベリアのラフテーは少女兵となり戦うしかなかった。戦争が終わった今は体を売って日銭を稼ぎ、そのほとんどが一食の食事代に消える。そんなラフテーが、ご飯を食べながら今の状況を「幸せ」と言い、将来の夢を語る姿を見て、口では言い表せられない感情が沸き上がってくる。この感情はなんなのだろう。

テレビ東京公式YouTubeチャンネルより

 

 気持ちの整理がつかないまま、他のエピソードも見ていると、毎月14人も死者が出るボリビアの鉱山で自らの命を危険に晒しながら働いている22歳の青年が、私達に向かって「俺のこと可哀想だと思ってない?」と問いかけてきた。厳密には私達に言っているわけではないのだけど、心の奥底を見透かされたような気がして、ドキッとする。