文春オンライン

現代日本を覆う「あの敗戦のようなパターン」な空気感

んで私たちの20年後はどうするんでしょうかね

2017/08/17
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東芝、東電 「大将、そら無理でんがな」と声を上げることもできず

 また、一連の加計学園問題では、獣医学部の新設にあたって文部科学行政がいかにいけてなかったかも話題になっていました。その中でも、鳴り物入りで司法改革の一助となるべく導入されたはずの法科大学院とかどうしようもない状況になっているわけですよ。たぶん、法学に限らず大学で多少なりとも活動している人たちからすれば「ああ、きっとうまくいかないんだろうなあ」と思いながらも、まあ全大学横断的にやるぞという話ならしょうがないんだろうなあと一歩踏み出してみたらこのザマです。もちろん理想は分かるんですけど、法曹界の一部が理想としていた陪審制度であれ法科大学院であれ、現場の人たちはこれは駄目なんだろうな、でも止められないんだろうな、という葛藤は持ちつつも、意志決定者に「大将、そら無理でんがな」と声を上げることもできず、ずるずると負け戦を分かって引っ張られていく。

 投資の界隈でも東芝だジャパンディスプレイだ東京電力だ、これはもう駄目かも分からんねと言いたい企業がいまなお経済メディア一面で取り上げられ続けているのも、意思決定者に対する忖度と現場が読む空気感に支配されておるからです。本来、東芝なんざとっとと上場廃止だろ。東京電力もいつまでも国の責任で行う賠償が確定しないから賠償会社とサービス会社を分離したりできず、日々の生活を支える送電で頑張ってる現場が可哀想だ。負け戦と分かっていても監査制度は踏みにじられ、上場基準は捻じ曲げられ、本来退場するべき企業が上場を続けていたり、白旗が上がっていなければならない状況でもまだ戦えると戦力の逐次投入を強いられて、社会全体が不信感と出血に苛まれながら自縄自縛となるのです。その東芝に不思議な介入をした世耕弘成さんは経済産業大臣に留任ですよ。ロシア外交でもあれだけの失敗をしておきながら、なぜその重要閣僚のポジションに留まれるのか、意味が分からないのです。

東芝は1兆円に近い大赤字を出した ©getty

負け戦の根源は「人口オーナス」

 負け戦の根源は日本の国力低下であり、その主要因は人口オーナスと言われる高齢化と人口減少です。とりわけ労働人口の減少は増える高齢者福祉を支えられることなど誰もが無理だと分かっていながら、うっかり「高齢者は死ね」とやると社会的に殺されかねないぐらいの制裁を喰らう、だから誰もそうは言わない。綺麗事なのか、人口減少でも大丈夫だぐらいのことをいう評論家や政治家はたくさんいます。大丈夫なわけないだろ。

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 いままでの政策の延長線上でやると消費税でもなんでも増税しなければならない一方で、国際競争力を維持するぞとなると法人税は下げろとなって、貧富の差は拡大する方向に動くし、景気も冷える。財源は無いのに増大する社会保障費をどうにかしなければとなれば、人口減少しても大丈夫なような社会制度に変えようとならざるを得ないという、非常にむつかしい舵取りを現代日本は強いられているわけですよ。本来は、森友学園とか加計学園とかで倒閣運動するよりも、んで私たちの20年後はどうするんでしょうかねという話をしなければならないのにおざなりになっているようにも見えます。

 たぶん、国民の大多数は「これはもう負け戦だ」と思ってるんですよ。一歩間違えば、また焼け野原待ったなしだという気持ちすらある人もいるかもしれない。ただ、誰しも失敗の責任は取りたくないし、切り捨てられる側に回るのはまっぴらだ。どうせ駄目なら静かにして目を付けられず、人生の最後までしがみついていたい、たとえ沈む瞬間までの命だったとしても。