――緊急事態宣言では、全国一斉にやらないと人が移動してしまう恐れがあると指摘されています。
石破氏:
果たしてそうでしょうか。もちろん、国と各都道府県との綿密な調整や連携は必要ですが、県を超える移動についての自粛をお願いすることは、全国一律であるとそうでないとに違いがあるとは私には思えません。憲法で保障する「移動の自由」にも、「公共の福祉」という歯止めがかかっています。
これまでは東京や大阪、名古屋が日本を引っ張ってきたわけですが、地方創生の本質は、地方こそがこれからの日本を牽引し、大都市のリスクを可能な限り低減するということだったはずです。今こそその本旨に立ち返って、岩手県なら岩手県、山形県なら山形県内の人と物の移動を徐々に認め、日本全体が沈んでいくのを地方から防ぐべきではないかと思います。
現場の声無き9月入学は乱暴
――緊急事態宣言の延長で、難しいのが学校再開をいつにするかです。一方で、これを機に学校制度を9月入学に切り替えるという案が急浮上しています。
石破氏:
英語の入試改革について大混乱をきたし、大臣の判断で見直しとなったばかりです。このような大きな制度設計については、なによりもまず教育の現場、当事者の方々、そして学生さんたちの意見も丁寧に聴くべきではないでしょうか。
9月からとなると、学年分断が起こらないようにするにはどうするのかという話もありますし、熟議を経ずに今年9月からというのはあまりにも乱暴です。私は9月入学自体に反対というわけではありませんが、現場が「この制度はこうすればできるね」と得心できるような制度設計を積み重ねた上でやらないと、取り返しがつかないことが起きるのではないですかね。
――感染症対策として、これまでも日本版CDCを作るべきだという意見が幾度となく上がっていましたが、いまも作られていません。これについてはどうお考えですか?
石破氏:
独立性の高い日本版CDCが必要と考えています。厚生労働省の中にCDC的な局を作るのではあまり意味がありません。アメリカのCDCは行政からも一定程度距離を置いた、自己完結型の独立組織です。欧米では「軍隊は国家に隷属し、警察は政府に隷属する」というのが常識ですが、CDCもこの意味では軍隊と同じような組織であって、政治的思惑をできるだけ排除するようになっています。日本版CDCも、内閣から「この感染症を早期に収束させよ」という指示を受けたら、実際に何をやるかはCDCが決める形にすべきだと思います。そのためには医学、特に感染症と公衆衛生の専門家を揃え、またその知見を社会にどのように適用し、それをどう広報するかといったノウハウも持った集団として作り上げ、行政は彼らの独立性を尊重し、彼らが言ったことを採用する。しかし責任は政治が持つ。こういう組織が望ましいと考えます。