――北朝鮮についてはいかがでしょう?
石破氏:
現状で確たることは申し上げられません。本当に金与正氏が後継者とされるのだろうか。韓国の文大統領とはどのような関係になるのだろうか。小中華思想である朝鮮民族が融和して、一国二制度を過渡期に挟むということも考えられますが、中国は今よりも同一性を高めた朝鮮半島の体制を好ましいとは思わないのではないでしょうか。だとすると、中国がどんな手を打ってくるのか。トランプ政権かバイデン政権かわからないけれども、アメリカの国力が相対的にしばらく下がっていく中で、その空白を中国が埋めようとする傾向はこれからも続くでしょう。
緊急事態条項、9条、憲法改正は
――では最後に憲法改正について伺います。緊急事態宣言を出したことを機に、憲法改正、緊急事態条項を党内で議論するべきとの声があがっていますが、この動きには賛同されますか?
石破氏:
緊急事態条項を必要とする典型的な場合は、武力攻撃事態です。憲法に定める「公共の福祉」による私権の制限には、かなり民主的な手続きを必要としますが、そういう手続きを踏んでいるいとまが無い場合の規定が憲法には欠けています。日本とは全く違う価値観を持った他国に侵略されて、日本国の憲法秩序が破壊され、基本的人権の尊重をはじめとする国民の自由と権利が根底から脅かされる場合に備えた緊急事態条項は必要です。
ただし、これは時期を限定した権力の集中ですから、開始、継続、そして停止、それぞれの要件と国会の関与について、明示的に事前に規定しておかないと暴走の危険が伴います。私は、このような緊急事態条項の議論は、今回のコロナに関連してすべきものではないと思っています。いまは確かに一種の危機ですが、憲法秩序が破壊されるような状況が起こっていますか、といえばそうではないと思います。
――現政権の憲法9条の改正案には反対されていますね。
石破氏:
そもそも現政権の改正案なるものが明確に示されているわけではありませんが、もし憲法9条一項、二項はそのままにして三項を付け加えるというような改正であるとすれば、それには反対です。これは「軍隊」の本質を完全に見失ったもので、将来に禍根を残します。
最初の話に戻りますが、平素から備えていないこと、訓練していないことはできません。日本の防衛態勢についても、何がどこまでできるのか、私たちは平素からしっかり知っておかないといけないのです。そうでなければ外交は出来ないし、国民もいざとなって「こんなはずではなかった」となりかねない。
法律にしても、日米安保条約にしても、陸海空の装備にしても、何が出来て何が足りないのかということを知り、平素から備えておくべきです。そこは新型感染症に対する準備と同じと言ってもいい。
わが国の国是である「専守防衛」は、達成するのは一番難しい防衛思想です。「専守防衛です」と言っていれば平和、と思っている人もいるのかもしれませんが、専守防衛は国土が戦場になる危険性を常に持っている防衛思想です。これも、本当にそれでいいのかと問うべきものでしょうね。
――お忙しい中ありがとうございました。
(聞き手:フジテレビ解説委員 鈴木款 インタビューは4月30日、都内の衆議院議員会館にて、ソーシャルディスタンスを取って行った)