※取材は著者と現地記者による特別取材班で行いました。
「尹美香は慰安婦に謝罪しなさい! 国会議員を辞めて、韓国民に謝罪しなさい!」
5月13日水曜日、ソウル旧日本大使館前は異様な熱気に包まれていた。慰安婦問題で日本政府を糾弾するために行われてきた水曜集会、だがこの日、厳しい声を浴びせられていたのは主催者である「挺対協(正義記憶連帯)」であり、韓国総選挙で議員当選した「前代表・尹美香(ユン・ミヒャン)氏」だった。
韓国メディアでは彼女らの疑惑が次々と報じられ、“第2の曺国(前法務長官)事件”と呼ばれるようになっていた。
「正義記憶連帯の李娜栄(イ・ナヨン)理事長に問う! 誰が慰安婦問題の障害であり、妨害勢力なのか明らかにしなさい。慰安婦が水曜集会を止めろと言ったなら、止めなければならない!」
次々と上げられる糾弾の声――。挺対協に対抗するかのように、大使館前に集まってきたのは太平洋戦争の被害者団体のメンバーだった。
「国民的ヒロイン」元慰安婦・李容洙氏の告発
「5月7日、大邱市内の記者会見を行った元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス 91)氏は、『水曜集会をなくさなければいけない』、『水曜集会で集めた寄付金は、慰安婦のために使うべきなのに、挺対協は使ってこなかった』などと告発した。国民的ヒロインである李容洙氏の反乱は、韓国内でも大きな反響を呼びました。この記者会見の仕掛人と目されているのが崔容相(チェ・ヨンサン)氏という人物なのです」(ソウル特派員)
崔氏は「アジア太平洋戦争犠牲者韓国遺族会」の事務局長を務める人物だ。同遺族会は多数の太平洋戦争被害者や遺族が参加する有力団体の一つ。徴用工問題では、日本企業相手に裁判を起こしたグループとは異なる行動を取り、韓国政府を相手に裁判を起こしている団体としても知られている。彼らの主張は日韓請求権交渉に基づき補償金は韓国政府が支払うべきもの、というものだ。
私は拙著「韓国人、韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち」で崔氏に取材した経緯があり、顔見知りでもあった。挺対協ら市民団体に支配された歴史問題を、被害者の手に取り戻したいという思いを何度も聞いてきた。
李容洙氏会見の黒幕説は本当なのか。大使館前で崔氏に話を聞いた。
当事者たちの疑問「なぜ市民運動家が大きな顔をしているのか」
「李容洙さんの記者会見は、ハルモニ(李容洙)が長い間悩んだ末、この水曜集会は韓日関係にとって悪い影響しか残らないと考えたようです。 金学順(キム・ハクスン)さんの告白から始まったこの運動を、自らの手で運動を終わらせようと李容洙ハルモニは考えていたようです。
本人が決意を固めて記者会見をしたわけで、私はそこのお手伝いしただけです。私がまるでハルモニを利用して記者会見をさせたように言われてますが、それは事実ではありません」
崔氏は、記者会見は李容洙氏の意思によるものと繰り返した。
近年、歴史問題を“反日運動”として牛耳ってきた挺対協ら市民団体に対して、被害者間では不満がマグマのように滞留していた。元慰安婦、元徴用工の人々は「なぜ、市民運動家が大きな顔をしているのか」という疑問を常に抱えていた。李容洙もその一人だったというのだ。
崔氏が続ける。