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小学校6年生の時に気づいたこと

「レインさん、いままで一番好きだった彼氏の思い出、ありますか?」

「前につきあっていた人が、面倒見のいい人で、自由にいろいろやらせてくれて、あと、いろんな旅行とかも行ったりして。最近ですね。2年前くらい。ただ束縛がすごかったので。ある店の従業員だったんですけど」

「フィリピンの人って、独占欲強いのかな?」

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 するとレインは今日一番、予想外な発言をした。

「わたしの恋愛対象は女の人です。言ってなかったけど」

「ああ。束縛がすごかった、というのは女性だったんですね」

「そうですね」

「レインさんは、男性との恋愛はない?」

「ないです」

「一度も?」

「一度もないです、好きになったことも。好きになっても、恋愛じゃなくて、兄妹みたいな関係です」

 先ほど、私は「予想外な発言」と書いたが、予想通り、という気持ちもあった。

 みずからを“ウェイター”と呼び、スカートをはくことへの抵抗感、身のこなし方等、そう思うときがあった。

「自分がそうなんじゃないかってわかったのは日本にいたときです。フィリピンにいたときは、“男っぽいね”ってよく言われたんですけど、それがはっきりわかったのが、日本に来てでした。みんな、好きな人の話しません? 男子のこと“大好きなの”とか友だちが言うんだけど、わたしにはそれがまったくなくて、逆に“あの女の子かわいいな”って思うんですね。友だちの女の子と違うのかなって薄々気づいたのが、小学校6年生だったかな。タイプの女性? 女性らしいかたがいいです」

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 私は最後に肝心の質問をしてみた。

「雨は好きですか?」

「嫌いじゃないです。フィリピンでは、よく雨で遊んでましたから」

 レインはこのインタビューの後、スポーツジムでカラダを鍛えるために、真っ赤な愛車レクサスを運転して去って行った。

 ここで空から雨が舞い落ちてきたら最高なんだが……。

 春先の空は乾燥した霞色をたたえている。

ハーフの子供たち (角川新書)

本橋 信宏

KADOKAWA

2020年5月8日 発売