「ジャパゆきさん」は、1983年頃に流行語となった、アジア各国から日本に働きにやってくる女性たちを指す造語だ。ジャパゆきさんとして来日してきた彼女たちの多くは、劣悪な環境での労働を強いられた。現在となっては珍しくない存在になりつつあるが、当時日本人男性との間に生まれたハーフの子供たちも、ジャパゆきさん同様に一筋縄ではいかない人生を送ってきただろう。
その実態に、山田孝之氏主演のNetflixドラマ『全裸監督』の原作者として知られる本橋信宏氏が迫った。
独特の出自を持つ彼ら彼女らは、どのような半生を送ってきたのか。日本社会への適応を探り、懸命に生きる子供たちを追う渾身のルポ『ハーフの子供たち』(角川新書)より、ロックシンガー“レイン”のこれまでの生活について引用して紹介する。
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結束カメラマンに紹介されて出会う日比ハーフのレインは、六本木の深夜、ステージで歌う予定だ。
出演までの2時間、私は結束武郎がいかにカメラマンになりしか、を聞いて、あらためて人間の出会いの奥深さを思い知った。
「そろそろ時間ですから、行きましょうか」
結束カメラマンが席を立った。
明け方まで営業しているライブハウスに私たちは潜入した。
ドアを開けると、大音響が襲ってくる。ステージでは外国人ミュージシャンがロックを演奏している。曲は映画で再ブームになっているクイーンだ。
座席はすべて埋まり、立ち見もかなりの数である。
店員もほぼ全員が外国人で、客の半分も外国人、おそらく六本木周辺の大使館員や駐留米軍兵士、商社マンといったところだろう。
ラフなTシャツ、ジーンズ姿もいれば会社帰りのスーツ男性もいる。若い日本人女性たちのグループも散見される。
陽気な外国人が多くいるせいか、曲が変わるたびに悲鳴のような歓声があちこちから沸き上がる。
七色の光線が生き物のように店内を駆け巡る。
「騒がしい店内のほうが外国人はいいみたいですよ。フィリピンでもこういう店が人気なんです。どんちゃん騒ぎが大好き。明け方まで騒いでいるんですから。この店もそう。始発までこうやって騒いでいる。なかには終電に乗って六本木まで遊びに来て始発で帰る外国人もいますから」
店内の大音量に負けないように結束カメラマンが私の耳元で大声を出す。
レインの表情から笑みが消えない
しばらく休憩があって、いよいよレインの登場である。
革ジャン、ショートヘア、薔薇のようなタトゥが腕から首筋、胸元にかけて彫られている。
レインというステージネームから私は、ムード歌謡の歌手を連想していたがまるで違った。
レインがジョーン・ジェットの大ヒット曲『I Love Rock' n' Roll』を歌い出す。飛び跳ね、観客を煽り、店内がいきなりカオス状態になった。立ち見の外国人が飛び跳ね奇声を発し、歌う、踊る。
今夜一番の盛り上がりである。
攻撃的な曲では顔つきもきつい表情になりがちだが、レインの表情から笑みが消えない。歌うのが好きで好きでたまらないといった顔だ。いい笑顔だ。
曲はさらに激しいロックになる。楽曲名はわからないが、過去に何度か耳にした曲だ。観客は今夜一番の絶頂をみせた。