三菱商事、ソデックス、ローソン、サントリー……。私は社会人になってからこれまで、商社、外食、小売り、製造業と、さまざまな場所で仕事をしてきました。私がそこで何を考え、なぜ挑戦し続けることができたのか。現在までのキャリアの中から、本当に役立つエッセンスをこれからお話ししたいと思います。
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佐治さんは、ビームを買うことで、サントリーという組織を揺さぶった
サントリー会長の佐治信忠という人を、私は経営者として尊敬しています。大きな流れを読める、最後に大きな決断ができる人です。だから、学んでみたいなという思いがありました。人として、またリーダーとしても魅力がありました。オーラはすごいし、いい意味での怖さがある一方で、心の底から本当に優しい。ある意味では、織田信長もこうだったのだろうかと思わせるようなところがあります。
佐治さんは、ビームを買うことで、サントリーという組織を揺さぶったと考えています。もし単純なやり方であれば、アイデンティティが強い会社はなかなか新しいものを受け入れようとしません。組織を活性化するには、人材やノウハウといったいろんな新しいものをもっと見てみようと視野を拡げることが重要なのです。
ビームを買うことによって、サントリーそのものを脱皮させなければならない。サントリーが永遠に続くためには、脱皮するタイミングがあるわけです。そのためにグローバルに脱皮しようとしているタイミングで、思い切り激しい揺さぶりをかけたのです。
強いリーダーシップとは胆力
実は、組織を揺さぶるという経営手法は、なかなかできることではないのです。サラリーマン経営者にはできないかもしれません。それはある種の賭けでもありますから。みんなで危機感を持って、この買収プロジェクトを必ず成功させる。国内も、もう一度ビール事業を見直す。サントリーの業績は堅調であるにもかかわらず、あえてやらなくてもいいことをやって、組織を揺さぶっているのです。これはすごいマネジメント力です。こんなことをハーバードでは教えてくれません。相当な胆力が要ることです。
その意味で、アメリカの経営者のように株主第一主義でやってきた人は、長期投資なんかできないし、サラリーマン経営者には説明責任が必要になるんです。でも、我々の会社にとっては、すごくいいやり方だった。
だから、どうしてもそうせざるを得ない環境に追い込んだんです。必ずやり抜けると。こういう経営手法というのはすごい。ビール事業もそうです。これまでも執念を持って、やり抜いているわけです。成功というのは、やり抜かなければ実現できません。これはサラリーマン経営者にはできないことです。しかしだからこそ、これはサントリーだけでなく、今の日本企業に必要なことなんです。それはもう一度ハングリーになれるからです。
佐治さんは、あえてグローバル化するためにリスクを取っています。ビームの買収も、創業家出身ではない私を社長にしたのも、リスクです。しかも、ダブルリスクです。でも、本気でやる。ビームを買うことをずっと考え、やり遂げる。私に来て欲しいと説得する。佐治さんは本当に胆力の人だと思います。
ビームは必ずやり遂げる
何事も成就させるには、しぶとさがなければ駄目なんです。やり抜く力を持つことです。私に課せられた今の仕事はビームを軌道に乗せることです。日本企業がこれだけの規模のクロスボーダーでアメリカ企業の買収をして成功に導くというのは、過去の歴史を見ても、それほど多くはありません。それにあと5年ぐらいで目鼻をつけたいと思っています。早く買っただけの価値がきちんと出る会社にしたい。
今は出だしの3年が経過しましたが、道のりはまだ長いと考えています。ですから、今はほかのことなんて考えていられません。せっかく佐治さんからご縁をいただいたのですから、日本の会社として偉業になるようなことをやりたいと考えています。ビームが軌道に乗れば、サントリーはものすごく飛躍するでしょう。佐治さんに期待してもらっていますから、これは必ずやり遂げたいと思っています。
聞き手:國貞 文隆(ジャーナリスト)
新浪 剛史 サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長
1959年横浜市生まれ。81年三菱商事入社。91年ハーバード大学経営大学院修了(MBA取得)。95年ソデックスコーポレーション(現LEOC)代表取締役。2000年ローソンプロジェクト統括室長兼外食事業室長。02年ローソン代表取締役社長。14年よりサントリーホールディングス株式会社代表取締役社長。