かつて「暴力の街」「修羅の街」と呼ばれた福岡県北九州市。全国唯一の特定危険指定暴力団「工藤會」がこの街を牛耳っていたからである。しかし今、工藤會の屋台骨がぐらついている。福岡県警による相次ぐトップ検挙。一体何があったのか――。 現場を指揮した元刑事が、工藤會壊滅作戦の全貌を明かした 「県警VS暴力団 刑事が見たヤクザの真実」(文春新書)から一部を抜粋する。
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建築1%、土木2%、解体5%
工藤會は建設業者から、どれだけのみかじめ料を取っていたのか。
十社会と呼ばれた工藤會・田上理事長の関係企業にも、情報班は何度も足を運んだ。当時は20~30社程度に膨れ上がっていた。
元請けの一部ゼネコンも、その存在を認識した上で、工藤會関係企業が二次、三次の下請けに入るのを黙認していた。工藤會関係企業を下請けに入れれば、工藤會はもちろん、地元とのトラブルも発生しないからだ。
一次の業者は、下請け工事の作業を水増しするなどして、工藤會へのみかじめ料をあらかじめ組み込んでおく。結果的に、公共工事であれば税金を払う市民が、民間工事であれば発注者が、その分を多く負担させられることになる。
当時、工藤會へのみかじめ料は、建築工事が1%、土木が1.5から2%、解体工事が5%と言われていた。解体工事が高いのは、解体の際に出る鉄骨などを売ればその分の利益が出るからだ。
現地本部には、贈収賄など知能犯事件を扱う捜査第二課特捜班も配置され、二課の特捜と四課の資金源担当特捜班とが競うように、これら工藤會関係企業を摘発していった。談合、建設業法、廃棄物処理法など、使える法律は何でも活用した。二課の特捜は、さらに捜査を進めて、これら企業と公務員の癒着も解明し、国交省職員や地元議員らが絡む複数の贈収賄事件の検挙にも繋がっていった。
「工藤會は命を取るが、警察は会社を潰す」
現地本部の資金源対策が軌道に乗るにつれ、工藤會と関係の深い業者からは次のような言葉が聞こえるようになった。
「工藤會は命を取るが、警察は会社を潰す」
県警は決して真面目な業者を目の敵にしていた訳ではない。
これら工藤會関係の建設業者は、北九州地区の大型工事を工藤會と自分たちの都合の良いようにねじ曲げていた。これらの企業は、多くの大型工事の下請けを次々に受注し、真面目にコツコツ仕事をしている大多数の業者は、それらの工事から弾き出されていた。
一方で、警察に摘発された後、それを機に工藤會との関係を断とうとする業者もでてくるようになった。