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10歳年下妻の「がん」に半年気付かず…言えなかった47歳夫の不安と“痛恨のミス”

2020/05/24
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「わたし、どうしちゃったんだろうなぁ……」

 そう言ってもいられなくなったのが、息子が結膜炎になった8月中旬。次は俺の番かと身構えていたら、いつもの順番をすっ飛ばして妻の目から目ヤニが出るように。「まぁ、こんな場合もあるか」と彼女からうつる覚悟を決めていたが、俺はなにも発症しない。そして、9月に入ると再び目ヤニが出るが、今度は息子発ではないし、やっぱり俺にもうつらない。診てくれた眼科医に「こんな短い期間で続けて結膜炎になるなんて珍しい」と言われ、ようやくおかしいなと感じ始めたところで高熱が2週間も続くようになった。

目ヤニが止まらず眼科に行くが、はっきりとしたことはわからず。ちょっとしたメディカル・ホラー状態に。

 寝ても覚めても高熱、体がダルくてキツい。ここで咳か鼻水でも出てくれば、まだ風邪かなにかと納得できるが、そういった症状が皆無だから不気味でならない。近所の病院で診てもらうと、体のどこかに細菌が入り込んで、そこから離れた場所にある臓器や組織に二次的疾患を引き起こす病巣感染じゃないかとの診立て。なんだか聞き慣れない名前に戸惑ったし、「なんの細菌よ?」「どこから入り込んで、どこで悪さしてるんだよ?」と思ったものの、該当しそうな症状や病態があり、血液検査もしてくれて少しはホッとはする。とはいえ、息子はキャッキャッと飛び回っているのに、そのそばで妻は横たわってグッタリしている明暗の効きすぎた画は辛かった。そんななかでも寝ながら息子に授乳し、あやしている妻の姿は見ていて忍びなかった。また、彼女がベッドに入る前に「わたし、どうしちゃったんだろうなぁ……」と消え入りそうな声で呟いたのを聞いた時は、悲しさと不安と恐怖がごっちゃになって寝られず、自分の部屋に戻って明け方まで悶々としていた。この言葉は、しっかりとトラウマになっている。

大きな病院で診断した日、俺は仕事で外出中。妻から鉄欠乏性貧血&マイコプラズマ肺炎の疑いとの報告を受けるも、依然として高熱が続いていた。息子を風呂に入れられないほどヨレヨレであった。

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 血液検査の結果は、リンパ値の異常。加えて、大きな病院での再検査も決定。結果待ちの間に「これって、がんとかじゃないのか?」とほんの少しだけ疑ってもいて、妻も近所の病院の医師にも大きな病院の医師にも「がんの可能性ってありますか」とは訊いていたらしい。それぞれ答えは「35歳でしょ。がんになる年齢じゃないよ」というもので、こちらも「ですよねぇ」と返してプチ安堵していた。そして大きな病院の診断結果は鉄欠乏性貧血にしてマイコプラズマ肺炎の疑いありで、腫瘍マーカーでは異常値は出なかった。相当な貧血だと言われたと指で瞼を引き下げて内側を見せてくれたが、そこは血の気が引いて赤みのまったくない乳白色になっていた。