文春オンライン

平成生まれで元派遣社員の私が、はじめて『ハケンの品格』を見て“強烈な違和感”を覚えたワケ

満点で働く春子が300点を出してようやく認められる物語

2020/05/27
note

弁償の責任に「契約打ち切り」をちらつかせる正社員たち

 第2話では、美雪が会社のコーヒーメーカーを壊してしまい、現場を目撃したイジワル正社員代表・黒岩匡子(板谷由夏)が詰め寄るシーンがある。約15万円のコーヒーメーカーを15回払いで弁償すると言った美雪に、「バカねぇ、アンタ。3ヶ月しかいないんだから3回払いにしなさい、ね?」と笑顔で立ち去っていくのだ。

 春子とは違い、美雪は3ヶ月後の契約更新を目指す派遣社員である。その美雪に対して、弁償の責任と契約打ち切りの恐怖まで与える難易度高めのダブルミーニングな悪口だ。私だったら次の日から会社に行かない。美雪は正社員たちにコーヒーを買ってきますと申し出るのだが、あれよあれよという間に焼きそばパンやタバコまで頼まれて、同じ立場の派遣社員からは「派遣の恥だわ!」と睨まれてしまう。さらに怖いのが、それを受けて春子がマーケティング課の嘱託社員(小松政夫)から「たしか時給3000円以上だったよね? なんとか森ちゃんを救ってあげてくれないかなぁ?」と謎のプレッシャーを掛けられるシーンだ。弁償問題について一概には言えないが、派遣社員が同期の派遣社員の代わりに立替えをする義務はないし、しかも正社員から立替えを打診されるなんて現実では有り得ない(と思いたい)。これはさすがに春子でなくとも「私には関係ありません」と言い返したくなる。

加藤あい ©文藝春秋

春子に恋をしても“派遣社員という偏見”を捨てない東海林

 スーパーハケン・大前春子の最大の敵と言えば、営業部で主任を務める東海林武(大泉洋)だ。東海林のアンチ派遣っぷりはとにかく凄まじい。何を言っても動じない春子に「あなたは派遣を人だと思っているんですか?」と問われた東海林は痺れを切らしたように、こんな言葉を彼女にぶつけている。

ADVERTISEMENT

「あんたら派遣はな、黙って正社員の言うこと聞いてればいいんだ!!」(第1話より)

 いがみ合う二人の姿は似た者同士にも見えるが、この言葉に象徴されるように、東海林のセリフには、あらゆる場面で覆しようのない差別と偏見が見える。しかしこの後、春子が東海林のピンチを救ったことで、二人の関係は一気に恋愛へと発展していく。春子に対して、恋愛感情が芽生え始めた場面での、東海林のセリフも印象的だった。

「俺は派遣が嫌いだ。でも、俺はあんたのことは認めてる。すごい派遣だって思ってる。俺はあんたと一緒にいい仕事がしたいんだよ。一緒に働くってさ、一緒に生きるってことと同じだろ?」(第4話より)

大泉洋 ©文藝春秋

 恋愛関係が育つ過程では、相手の立場や状況に多少なりとも理解が生じてくるものだ。しかし、東海林は春子に特別な感情を抱き始めても、正社員の自分と派遣社員の春子との間に明確な一線を引いている。そして『ハケンの品格』において、この“偏見”が解かれることはなかった。彼は最後の最後まで「俺が派遣の気持ちわかるなんてやばいよな」と、派遣社員を別カテゴリーの人間として見続けるのだ。

 東海林は春子のことを「鎧を着た落ち武者みたいだ」(第9話より)と表現している。会社を愛してやまない彼にとって、派遣社員として一人で生きる春子の姿は“会社組織に属せない可哀想な人”なのかもしれない。