コロナに脅かされる首都の命運を担う政治家・小池百合子。女性初の都知事であり、「次の総理候補」との呼び声も高い。
しかし、われわれは、彼女のことをどれだけ知っているのだろうか。
「芦屋令嬢」として育ち、謎多きカイロ時代を経て、キャスターから政治の道へ――。常に「風」を巻き起こしながら、権力の頂点を目指す彼女。『女帝 小池百合子』(石井妙子著、文藝春秋)は、今まで明かされることのなかったその数奇な半生を、ノンフィクション作家が3年半の歳月を費やした綿密な取材のもと描き切った。
小池百合子氏が都知事に当選した翌年に行われた2017年の都議選では、築地市場の豊洲移転問題が大きな争点となった。「築地は守る、豊洲は活かす」と打ち出した裏側では何が起きていたのか。『女帝 小池百合子』より一部を抜粋する。
仲卸業者の意見を熱心に聞き入った
小池は都議選直前の6月17日、一度だけ築地市場に足を運んでいる。
集められた仲卸業者を前に、小池は豊洲の汚染が酷かったため移転中止の決断をした、無害化できない状況を申し訳なく思っている、と述べて頭を深々と下げた。移転を中止したまま、結論を出さずにいる小池に対して、仲卸業者は不満を募らせており、小池が頭を下げても部屋の空気は冷ややかだった。
その後、豊洲への移転反対派、賛成派、双方の仲卸業者が意見を述べた。小池は大きく頷きながら、熱心にメモを取りつつ聞き入った。
ひととおり仲卸業者の意見を聞き終えると、小池は立ち上がりスピーチを始めた。すると、会場の空気は一転した。美声で感情たっぷりに、築地への愛を切々と訴えたからである。