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800人超の死者を出す最悪の事態に

 販売開始後、イレッサは飲みやすい錠剤ということもあって多くの肺がん患者に投与されました。抗がん剤に精通した専門医だけでなく、一般開業医や歯科医までが処方したと言われています。ところが、その結果「間質性肺炎」という重篤な肺炎の副作用が多発し、2011年9月までに834人が死亡するという、最悪の事態となりました。

 その後、イレッサの第3相試験が行われましたが、プラセボ(偽薬)や従来薬に比べ、明確な延命効果を証明することができませんでした。

肺がん治療薬「イレッサ」 ©時事通信社

 ただし、対象患者を絞ることで効果が期待できるとして、現在は「EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌」に限って使える薬となっています。

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 この「イレッサの教訓」から言えることは何でしょうか。それは二つあります。

臨床試験で有効性が証明できない可能性も

 ひとつは、「安全性が高そうな薬でも、実際にたくさんの患者に使われると、思わぬ副作用が顕在化する場合がある」ということです。たとえば、100人に1人が死亡する副作用があったとしても、100人未満の小人数の臨床試験では把握できない恐れがあります。しかし、市販後に1万人が使ったとすると、計算上100人亡くなる可能性が出てきます。

 もう一つは、「事前に高い効果が期待できそうな薬でも、多数の患者を対象にした臨床試験を行ってみないと、本当に効くかどうかはわからない」ということです。理論上効果が期待できそうな薬や、細胞実験や動物実験で高い効果があった薬でも、実際の患者(ヒト)を対象にした臨床試験を行ってみると有効性を証明できず、いつの間にか消えていったものはいくらでもあります。

©iStock.com

 アビガンが「イレッサのようになる」と言いたいわけではありません。今のところ、アビガンには催奇形性以外の重大な副作用はあまり言われていません。ですが、承認されてたくさんの新型コロナ患者に使われたら、これまで知られていなかった副作用が顕在化しないとも限りません。

 また、臨床試験の結果が出ないと確かなことは言えませんが、最終的に有効性が証明できないことだってありえます。それどころか、まだ判明していない副作用のために患者にダメージを与えていて、逆に命を縮めてしまっていたことが、後になってわかる可能性すらあるのです。