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ワイドショー「アビガン激推し」への強烈な違和感 “イレッサ薬害事件”の教訓は忘れられたのか?

かつて“夢の新薬”と謳われた薬があった

2020/05/29
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もしものとき、ワイドショーに責任がとれるのか?

 新型コロナ患者のことを考えると、アビガンの有効性が証明されたほうがいいに決まっています。しかし、もし臨床試験で有効性が証明できなかった場合や、予期しない副作用が顕在化した場合、アビガンを推してきた岡田氏に乗ったワイドショーの責任者やテレビ局の上層部は責任を負えるでしょうか。

 新型コロナに感染した有名人が、あたかもアビガンを飲んだおかげで治ったかのようにテレビやネットニュースで報じられたことも問題です。なぜなら、アビガンを飲んで症状が改善したとしても、たまたま自然に治るタイミングに合っただけか、あるいは別の要因で治っただけかもしれないからです。

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 そのため科学的な医薬品の評価では、個人の体験談や医師の症例報告の「エビデンス(科学的証拠)」は、最低レベルの扱いとなっています。

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アビガンは「ランダム化比較試験」の結果が出ていない

 医薬品の効果を科学的に検証するのに、もっとも信頼性が高いとされる臨床試験の方法が、「ランダム化比較試験(RCT)」です。100人単位、ときには1000人単位の患者を対象に、「実薬」を飲むグループと、それに似せた「偽薬(プラセボ)」あるいは従来の薬を飲むグループ(対照群)とに、くじ引きのような方法で無作為に分け、両者が治るまでの期間や重症化率、死亡率などを比較するものです。

 無作為(ランダム)に両群を分けるのは、そうすれば片方の群に治りやすい人が多くなるような偏りがなくなり、両者をフェアに比較することができるからです。医師の手心が加わらないように、飲む患者も投与する医師も誰が実薬で誰が偽薬を飲んだかわからないように行う「二重盲検(ダブルブラインド)」という方法も合わせて採られます。

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 こうした臨床試験の努力を積み重ねて、対照群に比べて統計学的に明らかに治るまでの期間が短くなったとか、重症化率、死亡率が低下したという結果が出て、初めて科学的に「この薬はこの病気に効果がある」と言えるようになるのです。

 アビガンとともに新型コロナの薬として期待されているレムデシビルは、海外で新型コロナ患者に対してRCTが行われて、治療期間の短縮が認められました(重症化率、死亡率の低下は不明)。だから、特例で早く承認されたのです。しかし、アビガンはまだRCTの結果が出ていません。