多くの医師がワイドショーを批判している理由
ほんらい、報道機関がアビガンについて報道・論評する場合には、こうした医薬品の承認のプロセスや有効性、安全性を科学的に検証する方法について丁寧に説明し、人びとの過剰な期待を抑える役割を果たさなくてはならないはずです。もし早く使えるようにしてほしいのならば、むしろ臨床試験をサポートする態勢の充実を訴えたり、臨床試験に対する人びとの理解や協力を求めたりすべきです。しかし、ワイドショーでそのような丁寧な説明がされる場面を、少なくとも私は見ていません(やっていたのなら、教えてください)。
テレビ、新聞、雑誌などの報道機関は、何十万、何百万、何千万という読者や視聴者に大きな影響を与える力を持っています。だからこそ、人びとを誤った方向に導かないよう、ファクト(事実)やエビデンスに基づいて、正確な情報や的確な論評を伝える義務があります。その原則を守っているのなら、政府や行政に対してだけでなく、医療に対しても厳しい批判をして構わないと私は思います。
しかし、新型コロナに関するワイドショーの報道は、視聴率を稼ぎたいためなのか、視聴者を煽るばかりで、その原則がまったく守られていなかったと思います。PCR検査についての主張もそうですが、ツイッターやYouTubeでは、医師らによるワイドショー批判が数えきれないほど出ていました。番組スタッフも知らないはずはありません。
“アビガン推し”は利益誘導にもなりかねない
もう一つ問題だったと思うのは、アビガンを推すことが「利益誘導」になりかねないことです。承認前の医薬品の期待を煽れば、製造販売会社の株価にも影響を与える可能性があります。そうした危ういことをテレビがやっていいのでしょうか。
ちなみに、アビガンの製造販売会社は富士フイルムホールディングスの傘下にあります。同グループの古森重隆会長は、安倍首相のゴルフ仲間として有名です。モーニングショーのコメンテーターを務めるテレビ朝日社員の玉川徹氏は、権力監視をモットーとするならば、むしろ、
政治や経済もそうですが、医療報道も一つ間違えると、人の命を危険にさらしたり、医療現場を混乱させたりする恐れがあります。モーニングショーをはじめとするワイドショーには、そのような倫理観や緊張感が決定的に欠けていたと思います。
この秋冬に新型コロナの第二波が来ないとも限りません。そのときに、また同じような番組作りをすれば、ますますテレビの信頼性は落ちることになるでしょう。ワイドショーの責任者やテレビ局の上層部には猛省を求めたいと思います。