昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

ワイドショー「アビガン激推し」への強烈な違和感 “イレッサ薬害事件”の教訓は忘れられたのか?

かつて“夢の新薬”と謳われた薬があった

2020/05/29

 安倍晋三首相が「今月(5月)中の承認をめざす」としていた抗ウイルス薬「アビガン(一般名・ファビピラビル)」ですが、日本医師会が同月18日に、「科学を軽視した判断は最終的に国民にとって害悪」だとして、適切な臨床試験を経た承認手続きを求める声明を発表し、結局、5月中の承認は見送られました。

 新型インフルエンザのために備蓄されていたアビガンですが、朝のワイドショー番組などでは、まるで新型コロナウイルス治療の切り札かのように扱われてきました。とくにアビガンを事あるごとに推していたのが、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)に連日出演し、“コロナの女王”と呼ばれた元国立感染症研究所研究員の岡田晴恵氏です。たとえば彼女は、同番組の中で、次のように話していました。

抗ウイルス薬「アビガン」 ©時事通信社

「第二波は、やはり早く患者さんを見つけ早く隔離して早く治療して早くアビガンを与え…というようなことをしないと国民の健康被害が大きくなります」(5月19日放送分)。

かつて“夢の新薬”として期待された「イレッサ」

 このようにテレビで報じられ、期待が高まったためか、アビガンの承認見送りに抗議する声もツイッターで上がっているようです。しかし私は、こうしたテレビでのアビガンの取り上げ方には、非常に問題があったと思います。なぜなら、かつて大きな事件となった肺がん治療薬「イレッサ(一般名・ゲフィチニブ)」のことを思い出さずにはいられないからです。

 それは私が駆け出しの医療ライターだった20年ほど前のことです。「分子標的薬」という新しいタイプの薬として登場したイレッサは、承認前から医師向けの専門誌等で、「がん細胞だけを狙い撃ちする副作用の少ない薬」というプロモーションが展開されました。

©iStock.com

 さらに、国内で行われた小規模な臨床試験で肺がんに高い腫瘍縮小効果が見られたとして、テレビや新聞でも取り上げられるようになりました。そうした報道によって、肺がんで苦しむ患者や家族の期待がふくらみ、いつしか「夢の新薬」であるかのごとく語られるようになったのです。

申請からわずか5カ月で“異例の承認”

 原則として製薬会社が医薬品を市販する承認を国から得るためには、健康な人を対象に安全性を見極める「第1相試験」、少人数の患者を対象に安全性や効き方、投与量などを検証する「第2相試験」、そして、数百人規模の多数の患者を対象に有効性や安全性を確認する「第3相試験」の、3段階の臨床試験を実施する決まりとなっています。

 ところが、「早く使えるようにしてほしい」という患者や医療者の期待に後押しされてか、イレッサは本来行うべき「第3相試験」を市販後に行うという条件の下、製薬会社による国への申請からわずか5カ月という異例のスピードで、02年7月に承認されたのです。