2020年度に「性犯罪・性暴力等」を理由に処分された公立学校の教員は200人。しかし、被害者が泣き寝入りしたり、学校側が事実を認めなかったりしたケースは反映されていないため、この数字は氷山の一角だ。

 ここでは、こうした統計にも出てこない学校での性犯罪の実態を、被害者の母親の視点で綴ったノンフィクション『黙殺される教師の「性暴力」』(南彰著、朝日新聞出版)から一部を抜粋。障がいを持つ小学6年生の娘が、40代の担任教師に性的暴行を加えられた。しかし学校側は、その事実に対して驚くべき結論を出したのだ——。(全2回の2回目/1回目から続く

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娘が堰を切ったように告白した、「高木先生」の下劣な行為

 まるで波が押し寄せた後の引き潮にのまれるように、聖子(編集部注:以下全員仮名)は高木先生の見えない影へ引きずり込まれていった。

 次の水曜日。台所で聖子の好きなグラタンの準備をしていると、リビングで音楽を聴いていた聖子が突然、話し出した。百合子や千春は友達の家に遊びに行っており、まだ帰宅していなかった。

「高木、チンチン出すんだよ」

「えっ?」

 ジャガイモを切っていた包丁を滑らした。振り返ると、聖子は一点をうつろに見つめていた。

「気持ち悪いって言うと、『くそばばあ』って言うんだよ」「『そこで出すと気持ち悪い』って言っても、『いいじゃない』って言うの。ほかの子の前でも出すんだよ」「手を洗っているとき、おっぱいぎゅうするんだよ」「服をめくるんだよ」「トイレにも入ってくるんだよ。中に入ってくる時もある。『ごめんなさい』って言ってもやめてくれないんだよ」「くすぐった後、顔パンチするんだよ」「『髪の毛がお化けみたい』って言われた。髪の毛を引っ張って、廊下に出されたこともあるんだよ」「『この口が悪いんでしょ。口をはさみで切って殺すからね』って言われた」「『お金を出せ』って言われたから『無い』って言うと『むかつく』って言われるの」

 質問を差し挟む余裕もない。堰を切ったように、被害の告白があふれ出していく。聖子の話は、あさがお学級のほかの子どもたちが受けた被害にまで広がっていった。私はリビングの隅に置かれたパソコンを立ち上げた。初めて聞く内容ばかりで、とても覚えきれない。

 落ち着こう、落ち着こう。

「パンツの中に手を入れられた」と寝室で聞いた時には思わず泣き出してしまった私は、聖子に動揺を悟られないように自分に言い聞かせた。「そうなの?」と尋ねると黙り込んでしまうことがあるので、相づちもせず、黙々と打ち込んだ。

 話し終わった聖子は床にしゃがみ込み、ぼーっとテレビの方向を向いていた。私はあえて言葉をかけず、台所へ戻った。

 学校から高木先生の姿が消え、ほかの女の子たちも被害について話し始めるなかで、「誰かに話しても殺されないのかな」と少しずつ思い始めたようだ。1日置いて、聖子に尋ねてみた。