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捉え方一つでピンチはチャンスに変わる

 もともとの開幕日は、3月20日。実に3か月遅れで球春到来だ。日本の長いプロ野球の歴史でも最も調整が困難なオープニングピッチャーと言えるが、菅野は進化を求めて変化を恐れず、先の見えない状況にも心の糸が切れることはなかった。今年から取り組む腕から始動する新フォームの改良、コンディショニングの向上。90日という生まれた時間をプラスに捉え、あらゆる変化に適応し、万全の状態に仕上げてきた。

 営業という仕事に関しても同じだ。直接会うことは制限されたが、オンラインによって移動にかかる時間がとっぱらわれた。北海道の人と会話をしていた次の瞬間、沖縄の人と顔を合わせる。全国各地を秒でワープすることが日常的になった。近い距離で面と向かうのと違い、細かな表情や心情の変化は感じ取れないかもしれないが、時間と場所を合わせる必要のあった対面では限られていたコンタクトの回数は倍に増えた。新聞記者、営業マンとして人と会うことに誰よりも徹底的にこだわってきた私がオンラインを積極的に取り入れられたのは、捉え方一つでピンチはチャンスに変わるということを巨人のエースから学んだからだ。

エース・菅野智之 ©文藝春秋

 もちろん、一ファンとしてはスタンドで選手の熱のこもったプレーを目の当たりにし、スタジアムの熱狂に誘われてビールが進みに進み、ドラマチックな展開に狂喜乱舞したい。が、静まり返った野球中継で、珍プレー好プレーのお笑い芸人の茶化した吹替ではなく、頭部を襲ったデッドボールで激高したスラッガーのドスの効いた怒声を生で聞き取ってみたい。3度の目の前敬遠を経て、屈辱を晴らすサヨナラホームランで号泣した我らが亀井善行の涙声を感じ取れたら、もらい泣きの度合いは韓国ドラマの比ではないだろう。菅野が危機を脱した時に見せる、魂のシャウトが耳をつんざけば全身の血が逆流するほどの興奮が約束されるに違いない。

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 2020年の開幕戦。エースの衝突音は何度聞けるだろうか。阪神打線に凡打の山を築かせる姿に目を奪われるのもいいけれど、耳を澄ませてみるのも悪くない。

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