藤井聡太七段が8日に開幕する「第91期棋聖戦五番勝負」で、タイトル挑戦の史上最年少記録を更新する。迎え撃つのは渡辺明棋聖(棋王・王将と合わせて三冠)だ。

 その渡辺棋聖が“29連勝後の藤井聡太”について語った“3年前の”インタビューを特別に公開する(『天才 藤井聡太』〔文春文庫〕より)。渡辺棋聖の当時の予言が見事に的中していたこととは――。※肩書・段位・年齢などは当時のもの。

聞き手=北野新太
※インタビューは2017年7月中旬に行われたものです。

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藤井聡太七段。6月8日に開幕する棋聖戦五番勝負でタイトル挑戦の史上最年少記録を更新する ©文藝春秋

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「高卒で3割30本を超えるレベル」

 将棋の神様は極端に早熟を好む。

 史上最年少棋士・藤井聡太四段の29連勝は、語り継がれてきた真実を劇的に証明する出来事だった。

 渡辺明は言う。

「天才という言葉を使わないで藤井君について説明するのは難しいと思います。いちばん若くして棋士になって、勝ちっぷりが普通じゃない。大棋士になる条件は当然満たしていますよね。買うなら『数十年に1人の天才』というオッズが人気になるのは当然です」

 藤井はデビュー後、半年間勝ち続け、敗北を知らないまま公式戦29連勝の大記録を樹立した。将棋に「棋戦」という概念が生まれてから80年近い歳月の中、誰も到達出来なかった領域に、表情に幼さを残す中学3年生が足を踏み入れてしまったのである。

「タイトルを目指そうという新人がデビュー直後に勝率7、8割以上勝つのは当たり前なんです。藤井君が8割程度なら棋士間で評価は得られるものではありませんでした。9割を超えると『ちょっと違うな』と思うようになりますが、デビューから負けずに29連勝したわけですからね。驚きました。プロ野球に例えるなら並の新人王の成績では当然なくて、高卒で3割30本を超えるレベルです。2割8分20本程度じゃない」

 連勝中はあらゆるメディアに「藤井」の名が連日躍った。将棋が社会現象を巻き起こしたのは、渡辺が棋士になってから初めてのことだった。

「対局する立場ではなかったので、自分の業界に起きていることとは全く思えなくて、喜ばしいことだなと思っていました。私も世間の報道と同じで10連勝くらいではまだまだ驚きませんでしたが、20連勝近くなって、どうやら新四段の規格ではないと関心を持ち始めました。対戦相手はみんな見せ場だと思って張り切って臨むので、相乗効果を生んでいます。羽生さんは常にみんなの目標として当たり前に存在しているけど、過去十数年、特定の棋士に対してみんなが張り切ることなんてなかった。自分も対局するとなったら張り切ると思いますよ」