両極端な例は実戦の盤上で出現している。最速の手順で相手の王将を詰ましてしまう「光速の寄せ」で棋界を席巻した谷川九段のようなオフェンシブなスタイルを披露することもあれば、相手の攻めを徹底的に受け止める「千駄ヶ谷の受け師」こと木村一基九段のディフェンシブな棋風を踏襲したような将棋を展開することもある。
「どっちもやってしまうんですよ(笑)。どちらも指しこなそうとしているのだとしたら、ちょっとすごいです。王道のきれいな将棋も指すし、相手の得意な戦型を迎え撃つのは羽生さんに近いところを感じる時もあります。羽生さんもオールラウンドプレイヤーと言及されることが多いですが、木村さんのような受け将棋は指しませんから」
「せめて高校生になってから……」
渡辺も固有の「型」を武器に戦ってきた。王将を堅く守り、最小限の攻め駒で相手陣を攻略するスタイル。多くの棋士が踏襲し、現代将棋のトレンドを形成してきた。サッカーで言えば、ファンタジーを求めず、鉄壁の守備で勝利に徹する「カテナチオ」の思想に近いだろうか。
「堅さこそが正義という時代がけっこう続きましたけど、今はもうそういう将棋は指せなくなってきています。王様の守備が薄くても、コンピュータソフトが高い評価値(局面の形勢を数字で算出する数値)を出せば検討に値する、という考え方に変わってきています。藤井君の将棋は、まさに時代の流れを象徴しているんですよ」
14歳が成長を遂げれば、いずれは大舞台で2人は雌雄を決することになるだろう。
「まだタイトル戦で指している想像はしていませんけど、タイトルを持っていないと迎え撃つ立場で居られないので、そのような位置に居続けたいとは思いますね。自分は踏み台にされていく立場だと思うんですけど、そういう舞台に向かっていく楽しみはあります」
今年の竜王戦(七番勝負)で戦ってみたかったですか……?
「戦いたくなかったです。中学生と戦う心の準備は出来なかった。せめて高校生になってからにしてよ、と思いました(笑)」
※インタビューは2017年7月中旬に行われた。
(【続き】「彼は自分より2年くらい早い感じ」渡辺明棋聖が語っていた“藤井聡太七段、本当の実力” を読む)