「藤井君の実力が分かるのは3年後くらいじゃないですか?」
渡辺がタイトルを持つ竜王戦でも、藤井は11人の中から挑戦者を決める決勝トーナメントまで勝ち上がる快進撃を見せた。
「佐々木(勇気)五段に負けて連勝が止まるところで、(渡辺に挑戦するまでは)あと5勝必要でしたから、一般論で言えば、対戦する現実味はまだないですよね。ただ、一度負けない限りは底が見えないので、周りはみんな夢を見ていたと思います。何しろ29勝無敗でしたから。底の見えないものに対して一般論は通じない。それこそ『人類ではもう誰も勝てないんじゃ』みたいな感覚だったでしょう(笑)」
ただ、渡辺は世間の熱狂に流されてはいない。視線はクールだ。
「当然、今の時点での藤井君の評価は定まっていません。これまでの対戦相手は四、五段の棋士が多く、早指し棋戦(持ち時間の短い対局。実力を計りにくいとされる)も多いです。いわゆるトップクラスとの公式戦はまだ5局くらいですから、評価として不透明な部分はあります。あと20、30局のサンプルは見たいなとは思います。自分も最初の2年くらいは一線級の人とあまり当たらなくて、3年目くらいに羽生さんとか佐藤康光(日本将棋連盟会長、永世棋聖資格保持者)さんとかと対戦して、ちょっと力が違うなと感じたので。どのくらいの棋士になるのか、ある程度分かるようになるのは3年後くらいじゃないですか? 今の成長曲線で行けば羽生さんと同じくらいまで達すると思いますけど、まだ推測や期待の域を出ないです」
「光速の寄せ」も「千駄ヶ谷の受け師」も
ただ、現時点で藤井が偉業を成したことは事実でもある。29もの白星を積み上げた14歳の藤井の将棋とは、どのような個性を持つのだろう。現地観戦に赴くほどの欧州サッカーフリークである渡辺は、現代サッカーのトレンドに重ね合わせて表現した。
「最近のサッカーの戦術は多様化しすぎていて正直、訳が分からない(笑)。システムのことを言うと、中継を見ていると攻撃時と守備時の2パターンが表示されたりしますよね。青年監督とかがいっぱい出てきて、何かが変わっている時期なんでしょうけど、『守備時はファイブバックになるスリーバック』が理解出来ないです。センターバックの役割はどうなるのか、なぜ今まで存在しなかったのか……。藤井君の将棋も戦術に型のようなものがなく、言わば何でもありなんです。サッカーでは結果が出なくても10試合くらいはある程度、メンバーを固定して戦うことが多いですが、藤井君の将棋は既に戦術眼の広さを見せています。サッカー選手のポジションで言えば『8番』のような前線の攻撃型の選手なんですけど、守備をしてもうまくて何でも出来てしまうから、1人で全部やっちゃうような選手と言えばいいでしょうか。いろんなふうに論じることが出来る将棋だと思います」