文春オンライン

2020/06/11

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」ともいう。

 過去の歴史を教訓にしていれば、自分や会社がわざわざ痛い目に遭う必要はない、ということだ。

 吉本が“笑えない会社”になってしまったのでは、ギャグにもならない。

 笑わせる、という行為においては、どこにも負けない会社になってほしい。世界一オモロイ会社になってほしい。そうであり続けてほしいというのが、私の願いだ。

「笑える100年企業」のこれから

 古い話に戻すが、「なんばグランド花月」が入る吉本会館には、グランドオープン時、「デッセ・ジェニー」というディスコが地下にあった。

 正之助会長の鶴のひと声によって、決まったことだ。

 映画館をつくろうとしていたところで、「これからは映画館やなくてディスコやろ」と言われて、みんなが「ハイそうですね」と言って計画が変更されたのだ。

©iStock.com

 その段階では映画館の設営も進めていたので、発注済みの椅子をどうするか、という問題も生じた。そのとき誰かが、「うめだ花月で使えるんやないか」と言い出した。実際、椅子はうめだ花月に回すことになった。

 そうであれば、椅子を変えたとPRしない手はない。そのときはしっかりと、広報マンの私は「うめだ花月、新装オープン。座り心地最高の椅子に総入れ替えしました」と宣伝している。

 こんなことができるのが、「笑える会社」だ。どこにも負けないアドリブ力を持ち備える経営者がいる大企業だ。

「転んでも笑いながらタダでは起きない会社」だともいえる。

 正之助会長の時代がよかったかどうかはともかく、吉本興業という会社の本質、キャラクターとはこうしたところにあるのではないだろうか。

誰からも「吉本にはかなわんな」と言われる企業に

 “会社も社員もアホなところはあるけど、なんか憎めんし、おもろいからな”

 そう言われるような100年企業があってもいいのではないか、と思う。

 吉本興業は、謎の生命体である。オモロイことを本気で追求する集団でもある。

 生まれてからは、百有余年が過ぎている。その中では、どんどん成長できていた時期もあれば、しぼんでしまっていた時期もある。

 お客さんの笑いがあれば成長し、笑いがなくなれば消えてなくなってしまう。

 そんな100年企業は、地球上に他にないのではないか。

 そのことには、誇りを持ってもいいはずだ。

 どんな事業を展開してもかまわない。

 教育分野に進むなら、吉本のおかげでイジメが減り、楽しく学べたと言われる。

 医療福祉分野に進むなら、お笑いのおかげで健康でしたとか、病気にかかったとしても、吉本のおかげで笑いながら入院させ、本人も笑いながら死ねました、家族も笑いながら送りました、と言われる。

 そんな吉本であってほしい。

 世界中どこへ行っても、吉本の笑いがあり、みんなを笑顔にしていく。

 それこそが、この生命体が生まれた使命のようなものではないだろうか。

 そして誰からも言われる。

「吉本にはかなわんな」と。

吉本興業史 (角川新書)

竹中 功

KADOKAWA

2020年6月10日 発売

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー