Aたちの事件は“氷山の一角”か
ベトナム人不法滞在者のコロナ感染の可能性については、他にも埼玉県内で同じ家に住んでいた不法滞在者3人と留学生1人が感染したとして支援団体に連絡してきた事例(『文藝春秋』7月号参照)や、4月22日に千葉県柏市内で逮捕された不法滞在者2人が微熱を訴えてPCR検査を受けた事例(結果的に陰性)など、きわどい話が複数見つかる。
不法滞在者の多くは日本語が不自由で、感染予防や行動自粛に関する官公庁やメディアの情報を充分に受け取れない。また、狭いアパートに複数人で暮らす例が多く、お尋ね者の立場ゆえに近所付き合いもない。日本の公的機関を警戒しているため、かなり深刻な体調不良になっても医療機関を受診しない。
また、合法的に国内に滞在している技能実習生や留学生についても、寮などで「密」な環境で暮らしている点は変わりなく、また不法滞在者と接点を持つ人もかなり多い(不法滞在行為はいちおう犯罪なのだが、そうなる理由にやむを得ない点もあるため、少なくとも在日ベトナム人労働者の同胞のコミュニティの内部では抵抗なく受け入れられている)。
玉村町の事件では、たまたま無症状の感染者が交通事故に巻き込まれてCTスキャンを受けたことで陽性が明らかになったが、氷山の一角にすぎなかった可能性はすくなからずあるだろう。
“アメリカの3倍” カタールで何が起きているか
ちなみに、シンガポールはパンデミックの初期に自国民への感染拡大をほぼ抑制することに成功。一時はコロナ対策の優等生であるとみなされていたが、4月以降に「密」な環境で居住する出稼ぎ外国人労働者の間で感染が拡大してしまう。5月19日時点で約2.9万人に達した感染者のうち9割が外国人となった。
また、2022年のワールドカップ開催を控えたカタールでも5月27日までに4.8万人以上の感染者が出ており、人口あたりの感染者数はアメリカの3倍にも達している。こちらも、やはり感染者は外国人労働者が多くを占めている模様だ。
外国人労働者は日本の経済を縁の下から支える存在であり、私達の社会の大切な一員である。ただ、その生活様式や住環境は日本人から可視化されにくい部分も多い。特に不法滞在者の場合、生活の様子が「見えない」ことが、新型コロナウイルス感染拡大の一因となり得るリスクがある。
シンガポールやカタールの轍(てつ)を踏まないためにも、より慎重な感染第2波の封じ込めが求められていると言えるだろう。