酒盛り、酔っ払い運転、自損事故……Aたちに何があったか
日本におけるベトナム人の不法滞在者は、上記のAやBを含めて多くが元技能実習生だ。彼らは来日後の低賃金や出国前に母国で作った借金の返済に苦しんで実習先を逃亡し、同胞が多い場所に複数人で隠れ住みながら、偽造の在留カードでも雇用してもらえる建設現場などで働いている。
技能実習生時代は9万~12万円程度だった手取りの月収が、15万~20万円程度になることも珍しくないため、実習先からの逃亡は後をたたない。また、地方で暮らす不法滞在者には、ベトナム人コミュニティの内部で調達した自家用車を乗り回しているケースもかなり多い(母国で国際免許証を取得していない限り、当然ながら無免許運転である)。
しかし、日本国内でコロナ流行が深刻化した今年3月から、経済の停滞によって不法滞在者の多くは失業に近い状態に置かれることになった。かといってベトナムに戻る飛行機もほとんど飛ばず、またベトナム国家も厳しい水際対策を敷いている。ゆえに、たとえ入管に出頭しても帰国することができない状況だ。
しかし、群馬県のAたちは楽天的であった。緊急事態宣言下の4月14日、彼らはそんな厳しい状況もものともせず、平日の昼間から仲間と集まって酒盛りに興じていたのだ。
結果、午後3時過ぎにAとBが自動車に乗り酔っ払い運転で帰ろうとしたところ、玉村町大字福島付近の新興住宅街で敷石に車輪を乗り上げさせる自損事故を起こしてしまう。
しかも運悪く巡回中のパトカーに見つかってしまったため、AとBは警官の追跡を振り切ろうと逃亡。Aがしばらく走ってから大字下新田にある交差点に飛び出したところ、乗用車にはねられて負傷する。
やがて、病院に搬送されてCTスキャンを受けた結果、図らずしてコロナ感染が判明することになった。不法滞在・無免許飲酒運転・事故・逃亡・コロナ感染と、いわば「数え役満」さながらの問題だらけの事件はこうして起こったのだった。