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「密です」に見る魅力的な発言、仕草

―――病といえば、コロナ対策では小池氏の柄物のマスクが注目されたり、マスクをとって「あ、リップ忘れちゃった」と言ったりしたのが注目されました。

石井 おちゃめな感じを出すので、深刻なコロナ問題もなんだか軽く見えてしまう。自分の魅力を振りまく術に長けていて、魅力的な発言や仕草が自然とできる。「密です」とか。 

 テレビ界で仕事をしていたので服装など見た目が与える印象がどれだけ大きいかをよくわかっている。外見にこだわるのは子供時代の家庭環境に由来する。 

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 さらにテレビ界に入って竹村健一さんから「何をしゃべるかよりも、どういう服装をするかとかネクタイがどうとか、そういうところを視聴者は見ている」と叩き込まれる。だから中身よりも外身、どう見えるか、どんな印象を視覚的に与えるかを政治家になってからもとても意識している。 

―――公約の「七つのゼロ」なども軽いですね。おまけに実現もしない。

石井 実行できないことも平気で口にしてしまう。「満員電車ゼロ」のために2階建て電車を走らせますとか、本当に真剣に政策を考える人だったら、とても言えない内容だと思います。 

 しかし、小池さんだけを責められないとも思うんです。現在の政治報道、選挙報道は、報道と言えるのでしょうか。政策論争もさせず、記者は政局ばかりを追いかける。かたちだけの記者会見でぬるいやりとりをして、それで選べと言われても、候補者の考えや人となりは、まったく伝わってこない。

 だから、有権者は見た目や知名度や、話し方といった、表面的なものだけで適当に票を投じるわけです。何時間にもわたる徹底した討論などをやればいいと思うんですけど。そうしたら、メッキは剥がれるわけで、本質が見えてきます。 

社会が変化しなくては、第二、第三の「小池百合子」が登場する

―――小池氏は政策やその実行よりも、自分の過去を「物語」にして広めることで上昇してきました。

石井 私が本作を書く中でより感じたのは、小池さんを生み出してしまった土壌の問題です。「小池百合子」は、誰によって作られ、生み出されたのか。共犯となったのは、日本のメディアです。しかし、さらに言えば、日本社会が、彼女を生み出し育て上げたんです。小池百合子個人の責任だけでなく、彼女をここまでにした背景を浮き彫りにし、そこにある問題を見つめなければ意味がないと思いながら執筆しました。 

 

 言葉を発すればそのまま記者が記事にしてくれる。「カイロ大学卒、首席」にしても、誰も疑わず記事にしたわけですよね。メディアが「本人が言っていることだから」とそのまま活字にしてしまう、活字になればそれが事実として定着して広がっていく。雑誌はどこか柔軟なところがあって、ぱっと宗旨変えしますが、新聞やテレビは意地でも自分たちの非を認めないところがあるように見えます。 

「小池百合子」に誰が石を投げられるのか。この土壌そのものが変わらなくては、社会が変化しなくては、次から次へと第二、第三の「小池百合子」が出てくるのでしょう。