「芦屋令嬢」「カイロ大学を首席で卒業」「ニュースキャスター」。華やかな言葉で来歴が語られる小池百合子。その裏では何をしてでも有名になれという父の教えそのままに、自分の過去を、ときに自らの病や身内の死までをもマスコミを使って「物語」にし、それを広め、そして権力の階段を上ってきた。

 先日20万部を突破したその小池氏の評伝、『女帝 小池百合子』(文藝春秋)の著者・石井妙子に話を聞いた。

石井妙子さん

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スイッチが入ると、誰もが「小池百合子」を語り続けてしまう

―――発売と同時に大変な話題になっています。どのような反響がありましたか。

石井妙子さん(以下、石井)ネット上では「面白かった」「怖かった」と二つのキーワードが多く見受けられるようです。私自身に寄せられたところでは、「小池さんという人がどういう人物なのか初めてわかった」「今まで疑問に思っていたことが腑に落ちた」「肯定する気にはなれないけれど、がむしゃらに男社会をのし上がっていった小池さんに喝采を送りたい気持ちもある」「憎めない、かわいそうだ」「絶対に政治家にしておいてはならない」等、本当に幅広い感想を頂いています。 

 今の政治状況にも若干、影響を与えた面があったようで、とにかく反響の大きさに大変驚いています。 

 政治家の暴露本、批判本だと言う人もいますが、私はあくまで小池百合子という人物を調べ、事実を追いかけることを目的としました。先入観を持たずに、とにかく調べうる限り調べて書く。ノンフィクション作家とはそういうものだと思います。批判してやろう、都知事の座から引きずり降ろしてやろう、といった政治的意図をもって書いたわけではありません。

 ですが、そのように読む方がいてもいい。それも読者による、ひとつの受けとめ方です。私の作品はどこまでも読者への問いかけであって、答えを押し付けるものではありません。読者にはそれぞれ自由に読んで欲しいし、著者がそれを邪魔してはいけないと思っています。 

―――あとがきには、3年半のあいだに100人以上を取材したとあります。

石井 小池さんを嫌っている人だけを選んで取材したわけではないのですが、厳しい意見を耳にすることが多かった。取材に応じてくれる方というのは、たいていはいいことを言いたいから受けてくれるというケースが多いのですが。

 また、取材をしていて、誰もがスイッチが入ると、「小池百合子」を語り続けて止まらなくなる。ちょうど今、この本を読んでくれた方々がネット上でたくさん感想を語ってくださっていますが、それと似ています。 

「女の皮をかぶった男」なんじゃないか

―――そうした人たちは、小池氏について話す機会を待ち望んでいた感じだった?

石井 私が取材を始めたのは4年前の都知事選の直後でした。当時、小池さんの人気はすごく高かった。皆が「小池百合子」に熱狂し、報道も礼賛記事であふれていました。そうした中で取材に来た私のことを「この人はちょっと違うな」と思われたのか、本音を話してくれたように思います。 

 公人から市井の方まで、多くの方に会い、ハッとさせられるような「小池百合子」評を聞くことができました。

 

―――政治関係者が多いなか、女性学、ジェンダー研究者の田嶋陽子氏にも取材しています。

石井 田嶋先生は小池さんが都知事になったときに、記者会見に出て質問されていました。それが印象に残っていて、女性学の研究者として小池百合子をどう見ているかを聞いてみたかった。

 フェミニズムの世界では、父親の持つ男性の価値観をそのまま受け入れる女性を「父の娘」と呼ぶそうなのですが、小池百合子は「父の娘」だ、と。そして女性の都知事が誕生するのは歓迎すべきことだけれども小池さんでは喜びきれない、この人は本当に女なのか、「女の皮をかぶった男」なんじゃないかと田嶋先生は話してくれました。