14時台は1人客が多かった
神保町はオフィス街でもあるのでピーク時は2~4人客も来店するものの、14時台は1人客が多かった。古本屋や東京古書会館の即売会帰りの御仁は紙袋を開いて戦利品を眺め、周辺に数多くある出版社の人たちは遅めの昼飯を黙々と摂る。筆者が足繁く通うようになったのも、21年前に近くの編集プロダクションに勤め始めたのがきっかけだ。
当時の昼飯ローテーションは同店と「いもや」、カウンターすき焼きの「はらの」、カレーの「まんてん」、駿河台下交差点近くにあった「キッチンヤマダ」という具合。その後すずらん通りの古本屋で働くようになると「スヰートポーヅ」に行く頻度はさらに増していった。
水餃子と天津包子は13時以降しか注文できない
席につくとサッとお茶が出され、すかさず「餃子ライスを」と注文する。メニューは焼餃子に水餃子、天津包子(ポーヅ)と定食がメインで、水餃子と天津包子は時間がかかるため13時以降しか注文できない。餃子ライスは餃子8個とご飯、漬物がセットで770円。ほかに12個の中皿ライス、16個の大皿ライスもあるが、食欲旺盛な20代でも8個で満足だった。これに味噌汁がつくと定食となり170円がプラスされる。去年までは餃子ライスが680円、2000年頃はたしか640円だった。
お茶を飲み、新聞を読みつつ扉の上にあるテレビを眺めながら出来上がりを待つ。各テーブル下にはスポーツ紙に一般紙、日経新聞が置かれているのだ。ほどなくして餃子ライスが届くと、お姉さんはこちらがお願いする間もなく空いている湯呑にお茶を注ぎ足してくれる。その絶妙なテンポ感がいつも心地よかった。
その焼き餃子は独特だ。皮が餡を春巻きのようにクルっと包んでいて、真ん中が一か所押さえてあるだけで両サイドは閉じられていない。キツネ色に焼き上げられたのを頬張ると、コシのある皮に、濃いめの味付けでみっちりと噛み応えのある餡が口の中に広がり、思わずご飯を放り込んでしまう。以前何かの本で餡のレシピを見たが、豚ひき肉にキャベツ、玉葱、生姜を混ぜ込み、醤油ベースで味付けしていたと記憶している。しっかり味がついているから卓上にはラー油がなく、酢と醤油、練り辛子、一味唐辛子が置かれている。シンプルに辛子だけつけて食べるのもおいしく、ご飯の最後のひと口は小ぶりな白菜漬けで〆。その間2回ほどお茶のお替りを注いでもらっているが、食後の一杯は断って「お会計お願いします」と店の奥でそそくさと支払いを済ませる。毎回そんなルーティーンだった。