10万円の給付金「俺はもらえるよ」
国民全員に配られる10万円の特別定額給付金については「まだもらっていないけど、俺はもらえるよ。(生活)保護を申請していない人はもらえないんでしょ?」とのこと。
住所不定でも、実際に居住しているエリアで住民登録を行えば給付の対象になる。自立支援センターなどが住所として認められるケースもある。ただ、路上で暮らす人の中には、どうしても役所に出向いて申請することができない事情の人もいる。
配られた弁当を食べ終えた別の70歳くらいの男性は、言葉少なだった。
「自分はここだけ、他は行かない」
「じゃ、いるのはこの辺だけ? 銀座の大通りの方にも行くの?」
「あっちにも(昭和通りを)越えていくことはあるけど、(住んで)いるのはこっち」
そう話したきり、生活保護や給付金のことは何も話そうとしなかった。
日本は戸籍や住民登録で住民を管理しているため、登録されていない人は公的支援から排除されてしまう。これは役所に出向いて申請ができない事情のある人だけではない。短期の残留資格や残留資格がない在日外国人も公的支援を受けることはできないのだ。彼らの生活を支えている支援者がコロナ禍で収入が減れば、これ以上支援者に頼ることができなくなる。ネットカフェ難民や、労働が条件で従業員寮に住んでいる労働者が雇い止めにあえば途端にホームレスになってしまう。日本の潜在的ホームレス数は決して少なくない。
「民間団体の働きが大きかった」
炊き出しの主催者の話では、緊急事態宣言下だった5月にはおよそ80人が集まっていたという。この日は暑さのためか集まった人数はやや少なめの約60人で、コロナ以前とほぼ同数。この地区で活動する他の団体の統計を見ても、自粛期間中は人数が2割近く増えていたという。
「コロナで炊き出しが思うようにできなかった団体もありましたが、逆に回数を増やしてその分を補っていた支援団体もあった。彼らがコロナを乗り切れたのは、民間団体の働きが大きかった」と、炊き出しの取材で一緒になった大手テレビ局の報道局記者が教えてくれた。
各地の民間団体によっては、炊き出しだけでなく電話や路上での相談会や無料で宿泊できるシェルターの提供など、自己財源を切り崩しながらサポートをしてきたという。これはいつまでも続けられるものではなく、このままでは「支援崩壊」が起きても不思議ではない。
幸い、ニューヨークのように深刻化することはなかった。支援団体の頑張りもあって彼らはコロナの第一波をしのぐことができたのだ。だが、新型コロナへの効果的な対応策は依然としてない。この秋には第二波が襲来するともいわれるが、その時、彼らはどこで過ごすことになるのだろうか。
写真=薄井崇友