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 紆余曲折あって、こどもの国線は2000年3月に通勤線化開業する。こどもの国協会は公益法人だったため、通勤線化にあたり、線路施設を横浜高速鉄道に譲渡した。横浜高速鉄道はみなとみらい線の事業主体として設立された会社だ。こどもの国線とみなとみらい線はかなり離れているけれど、どちらも東急電鉄の路線に接続し、業務のほとんどを東急電鉄が担っている。

1990年代の航空写真。こどもの国線の西側の山が宅地になっている(国土地理院地図を加工)

騒音対策の実験場として注目

 こどもの国線の通勤線化にあたり、こどもの国線沿線住民会、東急、行政などが騒音問題解決へ尽力した。沿線住民会は頑固な廃止論者ではなかった。焦点は騒音と振動であり、こどもの国線沿線の推進派とは対立構造にならなかったと思われる。推進派も騒音で迷惑をかけてまで乗りたくない。そこで推進派地区の人々もこどもの国線沿線住民会に加わった。問題は「騒音と振動を解決しましょう」という一点に絞られた。横浜市長からは通勤線化後も騒音・振動の低減に努めると約束も取り付けた。

 現在、東急こどもの国線は長津田駅付近で低速度になる。カーブ区間ではレールの継ぎ目を溶接し、マクラギの材質を変えるなどの対策が追加され、加速減速時のモーター音が高まる区間では防音壁が設置されている。しかしこれで対策が終わったわけではない。現在運行されている電車「Y000系」では採用されなかったけれど、東京メトロ銀座線で採用された操舵台車の採用が住民会から提案されている。

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 東急電鉄の運転士たちも住民に寄り添い、騒音振動の少ない運転方法を研究し、それを実施するための標識を取り付けるなど努力した。これも信頼関係の醸成に役立ったと思われる。まるでカーブ区間の騒音対策のデパートのようだ。もしかしたら東急電鉄をはじめ、日本の鉄道業界は、この路線のおかげで知見を高めたかもしれない。

2019年の航空写真。通勤線化の効果か、住宅が増えている(国土地理院地図を加工)

「うしでんしゃ」「ひつじでんしゃ」が走る楽しい路線に

 2020年3月、こどもの国線は通勤線化から20周年を迎えた。沿線の人々はイベントを計画していたという。しかし、感染症対策を考慮して中止された。東急電鉄とこどもの国協会・雪印こどもの国牧場は事実上の記念事業として、3編成ある電車のうち1編成を「ひつじでんしゃ」としてラッピングした。2018年に登場した「うしでんしゃ」も併せて運行されている。通常塗装、うしでんしゃ、ひつじでんしゃの運行スケジュールは東急電鉄の公式サイト( https://tokyu-ushidensya.com/ )で公開されている。

住宅街を行く「うしでんしゃ」

 たった3.4kmのローカル線は、軍用線、レジャー輸送線、通勤線へと変貌した。そこには自然豊かな場所でマイホームを持った人々、静かな生活を守りたい人々、両方の期待に応えるべく尽力した人々の努力がある。

写真=杉山淳一