写真のおもしろさを再確認する機会に
日常を「写ルンです」で撮るという、これまでになかった撮影パターンを生活に組み入れて以来、新たな気づきはあっただろうか。
「いろいろありますよ。ひとつには私の日常って、いかに現実と非現実の間を行き来していることかと実感してしまったこと(笑)。監督したドラマ撮影が重なっていた時期というのもあって、写真にやたらスターたちが登場するんですよ。そのカットのあとには自分の子どもと遊んでいる写真がきたりして、これはなかなか振り幅が大きいなと。
それに、写真のおもしろさを改めて強く感じられたことも大きい。写真って、他のどんな表現ジャンルよりもすごく直接的ですよね。感情とダイレクトに結びついているというか。
たとえば映画監督をしているときの私は、言語を介してすべてを動かしていく。私は自分でカメラを回すわけでもなければ役を演じるわけでもない。そうではなくて、言葉を通して周りに意思を伝えて、私のビジョンをかたちにしてもらうのです。
対してひとりで写真を撮っているとき、そこに言葉は存在しない。私が何を見てどう感じ、それをいかに写真で切り取るかということだけを、言葉を使わずビジュアルと直観だけで自問自答しつつ表現が完結していく。
これってすごく心地いいことなんですよ。自分の気持ちとピッタリくっついたものをそのままアウトプットできるあの感じ、他じゃ味わえない。その感覚をありありと思い起こすことができたのは本当によかった」
たしかに展覧会会場の壁面を埋め尽くす無数の写真からは、撮り手の気分の高揚と歓び、被写体との濃厚な関係がしかと伝わってくる。同時に、眼に映るすべてのものを糧として創作につなげていく、蜷川実花の表現に対する貪欲さに、誰しも圧倒されてしまうはずだ。