新型コロナウイルス対策の予算として、与野党間で50兆円、100兆円という国家予算にも相当する金額が飛び交っている。この“金額競争”のような現状に危うさはないのか。7月に『コロナ危機の社会学』を上梓する東京工業大学准教授(社会学)の西田亮介氏に聞いた。

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大雑把な金額が注目を集めて、膨らむ予算

 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大という危機のなか、日本でも威勢の良い金額が、その対策費用として議論されています。 

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 6月12日に第2次補正予算が成立し、1次補正と合わせて一般会計から60兆円近くがコロナ対策に投入されることになりました。当初2020年度の予算歳出は約100兆円ですから、年間の国家予算の半分を上回る規模の予算が成立したことになります。

 この対策費について、安倍首相は「GDPの4割に上る空前絶後の規模、世界最大の対策」と国民にアピール。野党も負けじと「50兆円では足りない、100兆円の財政出動をすべきだ」(国民民主党の玉木雄一郎代表)などと張り合っています。

「世界最大の対策」とアピールする安倍首相 ©︎時事通信社

 緊縮財政がいいとは全く思いません。ただ、与野党がわかりやすい数字をアピールする“金額競争”に意識が向いているような状況で果たして良いのか。早急な対策が求められるとはいえ、大雑把な金額ばかりが注目を集めて、予算が膨らんでいるような印象もあります。

 確かに、大規模な財政支援を表明している国を挙げれば、アメリカは3兆ドル(約320兆円)で、さらに増額が検討されています。ドイツも8800億ユーロ(約106兆円)ですが、日本の場合も国費投入額の実費ではなく、事業規模でいえば200兆円を上回ります。しかし、日本の人口1.2億人に対して、アメリカは3億人超、ドイツは8000万人超。日本の感染状況は現状、両国と比べて相当程度軽微です。

「100兆円の財政出動をすべき」と主張する国民民主党の玉木代表 ©︎時事通信社

 日本の直近の危機と比較しても、リーマンショック対策の財政支出は約15兆円。民主党政権下の東日本大震災で組まれた予算は約20兆円でした。当時、財政規律を重要視したこともあって、赤字国債は発行せず、期限を区切って返済する復興債を財源に充てました。

 民主党政権当時のこうした方針を、いまの野党の皆さんはどう考えているのでしょうか。当時を失敗だったとみなして当時と真逆の方針を提案しているのか、当時と全く異なる事態と捉えているのか、理解困難です。世界的なコロナ危機で過去最大級の規模の措置が必要なのはもちろん理解できますが、文字通り前例のない数字になっています。