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セックス依存症の本質は「性欲が強いこと」ではない

「強迫的性行動症」にはいくつか特徴があります。

a)強烈かつ反復的な性的衝動または渇望の抑制の失敗

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b)反復的な性行動が生活の中心となり、他の関心、活動、責任が疎かになる

c)性行動の反復を減らす努力が度々失敗に終わっている

d)望ましくない結果が生じているにもかかわらず、またそこから満足が得られていないにも関わらず、性行動を継続している

e)この状態が、少なくとも6か月以上の期間にわたって継続している

f)重大な苦悩、及び個人、家族、社会、教育、職業、及び他の重要な領域での機能に重大な問題が生じている 

 この特徴を見ていると、どんなときでもセックスのことを考えていて、セックスをしたくてたまらない、性欲が人一倍強い、という病のように感じるかもしれません。しかし実は、強迫的性行動症(以下、本稿ではわかりやすくセックス依存症)の本質は「性欲が強いこと」ではないのです。実はもっと複雑で、様々な要因が絡み合った問題なのです。

犬の散歩をする渡部と佐々木。2018年7月撮影 ©文藝春秋

 私はいままで2000人以上の性依存症患者の治療に関わってきましたが、実は性欲が過剰で抑えられないという人はほとんどいませんでした。

 例えば痴漢の場合、痴漢行為中で半数の加害男性は勃起をしていませんでしたし、行為後射精を伴っていませんでした。あるセックス依存症の男性は、治療のために自慰行為や配偶者以外とのセックスをやめましたが、やめ始めた時期は常にセックスのことを考えていたのに、一定期間を超えると性欲や衝動が劇的に軽減したそうです。多くの性依存者は、生来の性欲ゆえにセックス依存症になってしまうのではない。

「支配欲や優越感を得るため」に「セックスに依存」

 一方で、彼らには共通していたことがあります。性行為自体に支配欲やそれに伴う優越感が潜んでいたのです。

  渡部さんの言動からは、女性をモノや性欲処理の道具として見ているような印象を受けました。不倫相手を呼び出したのが多目的トイレであることや、15分の性行為のあと1万円札をバッグの上に置いたなどはモノ以下の扱いです。また、不倫相手の女性に対して「奥さんとは仲が良い。(奥さんがいることと不倫は)それとこれは別」と発言していますが、奥さんを含め、複数の女性を“囲っている”ことに対する優越感や征服感が感じ取れます。 こういった性行為を通した感覚は、多くの性依存患者に見られる傾向です。

夫を支える佐々木希 ©AFLO

 そもそも依存症は、生育環境の問題やトラウマ、ストレスへの不適切な対処行動が習慣化していることが原因としてあり、そのような心理的苦痛を緩和する目的で精神作用物質であるアルコール、薬物、カフェインなどを使用することで始まります。これは行為やそのプロセスに耽溺するセックス依存症などにも原理原則が当てはまると考えられており、これを「負の強化」と言います。

 そこに男尊女卑的価値観が背景にあることが、危険なセックスや様々な性的逸脱行動につながってしまう。嗜癖行動の対象が過剰なセックスになってしまうのは、必ずしも性欲が強いからではなく、様々な複合的快楽が凝縮しているからなのです。