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朝ドラ「エール」放送中断前に……一時視聴率20%割れ、自由すぎるストーリーに“賛否両論”の理由

試金石になるのは、戦時下の描き方

2020/06/29
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これだけ史実を都合よく利用しておいて……

 SNSをのぞくと、案の定、賛否両論が渦巻いている。

 朝ドラの放送は、コロナ禍の影響で今月末より一時中断するけれども、その終わりがこれでいいのかという声まで見受けられる。というのも、「幽霊回」以降もスピンオフが続いていたからだ。

 いや、それだけではない。本筋への批判も無視できないレベルで多い。

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 いわく、モデルとなった人物への敬意がない。いわく、主人公が必要以上に陰気で身勝手な人物として描写されている。いわく、シナリオがおちゃらけ過ぎている。いわく、空虚なコメディーのようになっている――。

写真はイメージ ©iStock.com

 正直、テレビドラマとしての出来について筆者は判断しかねる。継続的に朝ドラをみているわけではないし、そもそもテレビドラマ自体、リアルタイムでみるのは小学生以来だからだ。「テレビはこういうもの」と言われれば、返す言葉もない。

 とはいえ、評伝の執筆者として、批判者の懸念もわからなくもない。

 今回の朝ドラは、古関裕而をモデルとうたっているのみならず、側面支援的な関連番組も多い。ドラマ本篇も、かなりよく調べられていて、随所に、音楽史の研究者にしかわからないような、マニアックなネタが仕込まれている。使われる音楽の多くが古関本人のメロディーなのは言わずもがな。

主人公の裕一を演じる窪田正孝 ©AFLO

 これだけ史実を都合よく利用している以上、いかにフィクションと銘打っていても、朝ドラのストーリーを部分的にでも史実と受け取るひとが出てきてもおかしくない。

 そのため、「もっと史実へ敬意を」との意見が出てくるのは当然だし、これにたいして「これはフィクションです」「現実と虚構を区別できていない」などと返すのも、いささか杓子定規だろう。