「んー、夢かな」

 午前2時。全国屈指の施設を誇る「神戸サウナ&スパ」の、誰もいない静かな静かなフィンランドサウナの中で、一人反芻していた。

 あれが去年、ゴールデングラブを取ったショート坂本の送球なのか?と。

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 亀井のこれぞ補殺!!といったバックホームをポロリした大城の事を(後で確認したら若干ファースト側か。しかし取って欲しかった……)。初回のホームランはともかく、あーこりゃ絶対ヤな感じするもんねー、と思ってたらスワローズのキャプテン・青木宣親にまんまと初球2点タイムリーかっ飛ばされた中継ぎ投手・鍵谷の事を。そして、かつてイチローが「日本一美しい」と言った球場の事を。

 静かなサウナ室からテラスに出て、水温11.7度という、どうかしてる程ビッキビキに冷たい水風呂に入り神戸の風に当たっていると、当然さっきまでの時間が夢じゃないという事実を文字通り肌で感じた。

 そう確かに、さっきまで俺は「ほっともっとフィールド神戸」にいたのだ。

©伊賀大介

非常に良く出来た「夢」のような体験だった

 90年代中盤、オリックスの天才バッター・イチローの活躍と共に何度もテレビで観た天然芝の美しき球場、元・グリーンスタジアム神戸である。あの96年腰砕け日シリ。ニールだよニール。(以下、愛を込めて元・グリーンスタジアムに)

 いつの日か巨人戦じゃなくて全然いいから、夏の夜にビール片手に野球と花火観てえなーとか呑気に思ってた、あの場所だ。念願叶って訪れる事の出来た球場で、確かに観たのは巨人の試合で、しかも未知の今シーズンにおいて初めての有観客試合であった。しかし、非常に良く出来た「夢」のような体験だった。嬉しさとか非日常と水風呂が混じり合った結果、脳がバグったとも言えるのか。

 ほんの2週間くらい前まで無観客試合をTVやDAZNで観ながら、皆で言っていたのは「そもそも今シーズン観れんのかな?」という事だった。東京ドームはシーズンシートの上級国民達が最優先だろうし、神宮もプラチナ会員になったとはいえ(今年から!)同じ様な状況だろう。視聴率は低いとはいえ、昨年のセパ観客動員数はおよそ2650万人。なかなか状況は厳しいのではないかと思っていた折、入ってきた関西での開催の情報。

「なぬ!! ほっと神戸でG―S戦!? しかも有観客初カード!?」

 その時点では仕事のスケジュールなどが未定だったが、とりあえず切符がなきゃ始まらない。10・9新日―Uインター対抗戦時の長州力ばりに「よし、神戸押さえろ!」と頼んでいたら見事に入手。毎日体温も測りつつ、とにかく「行ける準備」だけはしてた1週間。が、金曜日。本来なら有観客試合初日の金曜日は雨天中止! 偽ウィーラーこと岸田の雨ヘッスラに力無く笑った。

 これ、明日行って雨で中止になったら笑うなーと思ったが、それもまた人生。試合が見れず日帰りになっても、それも含めての「書くべき事」ではないか、と。とにかく出来る事は「めちゃくちゃ気をつけながら、この目で観る」ということしかない。運を天気に任せる、ってのはこういう事か。

2020ニューノーマルな入場スタイル

 そして7月11日夕刻! 神戸市須磨区・総合運動公園駅の改札を抜けた俺の眼前には、夢にまでみた元・グリーンスタジアムと、プロ野球死亡遊戯こと中溝康隆氏がイイ顔で立っていた。

 中溝氏とは、友人というか戦友というか互いの間に「巨人」というものがガッチリ介在しつつ、馬鹿話も出来る関係だ。氏のNumber Webでの連載『ぶら野球』にも何度か相乗りさせて貰った事もある。何かに狂っている同士に言葉は要らない。

 スタジアムの外観は、何つーか第三セクター感というか90年代のコンクリ箱モノ感があり、さりげないくたびれ感があってブルースを感じた。

©伊賀大介

 ソーシャル・ディスタンスを守りながら列に並び、検温~消毒&不測の事態に備え、チケットは2週間持ってて下さいという2020ニューノーマルな入場スタイル。スロープを歩き、三塁側スタンドから客席に入ると、思わず声が漏れる。

「うおー!!! 芝、めっちゃくちゃ綺麗じゃん!!!!!」

©伊賀大介

 昨日に続いて小雨がパラパラ降っている。

 え、さっきカッコつけてダメでも仕方無いとか言ったけど、マジ今日もダメ?? なんて思いつつも適度な水分量によってバックスクリーン後方の山々とグラウンドの緑色がより鮮やかに見えるのも又事実。

 とりあえずコンコースを歩きながら写真を撮りまくり、名物の沖縄黒カレーを食う(ウマイ!!)。

 果たして皆の祈りが通じたのか、18時前には雨があがり、30分遅れでの開始とのこと。中溝氏とは列違い、ブロック違いで3メートル以上のディスタンス。こうなると一人ずつ野球を見に来たのと一緒。

 そしてセカンドのスタメンは……若林。ってオイ!!

 いや若様もいいんですが、マジで吉川尚輝大丈夫なのか、未だに腰が痛むのか。はたまた首脳陣の怒りを買うような何か粗相をやらかしたのか、本当に心配になる。