尾木ママとしてテレビや雑誌で活躍中の教育評論家の尾木直樹さん。2017年2月22日に法政大学で行なわれた最終講義は「いじめ非常事態宣言」と言えました。長年、教育の現場で子どもたちと接してきた尾木さんは、昨今のいじめ問題の深刻さに警鐘を鳴らしています。とりわけ、大人たち、加害者の子どもたちそのものが変容しているのでは、と心配します。子どもたちを守るためにできることは何か。すべての親と教育者、そして子どもたちに向けて、鋭くも温かい言葉をお届けします。

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『尾木のママで 言わせていただくワ』(尾木直樹 著)

 茨城県取手市の女子中学生が、一昨年、いじめを訴える日記を残して自殺した問題で、8月11日、いじめを隠蔽していた市の教育委員会が両親のもとを謝罪に訪れました。両親の問いに押し黙るだけの様子には、子どもの命を守ろうとする教育者の気概はまったく見えませんでした。この問題では、自殺の原因はいじめではなかったという結論に誘導しようとした第三者調査委員会が被害者の両親に不信感を与えて解散になったり、本当にご遺族に辛いことがたくさん起こっています。今後行われる県主体での再調査が、事実関係をきちんと明らかにし、被害者に寄り添うものであってほしいと心から願っています。

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 滋賀、愛知、横浜、仙台、広島、埼玉、茨城と、いじめ問題の報道は引きもきりません。ここ数年、全国でいじめ問題やいじめによる自殺事件が相次いでいます。いじめ自殺の多さは、僕の44年間の教員生活の経験からしても、非常に深刻です。いったい、日本はどうなってしまったのかと思うくらいです。

 何かあった時に学校で行われる「いじめアンケート」が形骸化していることや、学校や教育委員会、第三者調査委員会の隠蔽体質も本当にひどい。でも同時に僕が気がかりなのは、加害者側・被害者側双方の意識がかつてに比べて大きく変容していることです。

尾木直樹さん。ビシッといじめの惨状に切り込みます。©文藝春秋

 昔はいじめ問題が起こると、加害者側の親は「申し訳ないことをした」とすっぱり詫びることも少なくありませんでした。ところが現在は、各地で加害者側が居直って徹底抗戦をしています。そんな加害者の親というのは、多くの場合、地元の政財界などの有力者なんです。そういう人たちが結託して、「いじめはなかった」という方向に何としても持っていこうとする。その子ども、つまり当の加害者は、かつてのような精神的な未熟さや粗暴さを抱えたいわゆる「いじめっ子」ではなく、“何不自由ない”家庭に育ったけれども相当な屈折を抱えている「ワル」です。ですから、問題が発覚しても、教育現場での加害者指導というのが非常に難しくなっているのです。最近、東大や千葉大、慶大などでレイプや強制わいせつ事件が連続しましたが、根っこは同じではないかと感じています。日本はこういう状況を早く脱出しないと、いずれ国力が落ちていくでしょう。