近年、中国は、自身が提唱する「一帯一路」構想によって、中央アジアを超えてヨーロッパに活路を求めてきました。アメリカからいくら封じ込められても、ヨーロッパを取り込むことで対抗する考えだったわけです。そしてこの構想はこれまで、実際にある程度うまくいっていた面もあったのに、今回のコロナ・パンデミックと「香港」によって、あっという間に「反中国」の気運が西ヨーロッパに広がり、仲違いしていた米欧が結束し始めたのです。「中国の孤立」は今や新しいステージに入ったといえるでしょう。
オーストラリア、インドは軍事協力
「中国包囲網」の進展は、ヨーロッパ以外ではどうなのか。
もっとも重要な出来事は、6月4日、先述の「アングロスフィア」の一角であるオーストラリアと、中国と国境を接する大国であるインドが、ついに歴史的といってもよい軍事協力関係を結ぶことに踏み切ったことです。
日本の政治家も、これまで日米に加えて豪印の4カ国関係に主軸を置いた安保構想として「インド太平洋ダイヤモンド(別名クアッド)構想」というビジョンを描いてきました。特に安倍首相は、第一次内閣時の2007年にインド議会で「日米豪印の連携」を提唱。第二次内閣が始まった2012年12月にも同様の構想を掲げ、この4カ国で西太平洋、インド洋に進出しようとする中国を抑止しようと以前から画策してきました。
ところが、インドとオーストラリアの2国間関係が問題だった。旧大英帝国時代の流刑地だったオーストラリアに対して、インドは当時から良い印象をもっていなかった。21世紀に入ってからもオーストラリアに移住・留学してきたインド人が襲撃される「カレー・バッシング」と呼ばれる人種差別事件も起こっていた。
中国はここに目をつけ、オーストラリアで政財界に工作を広げて中国への利益誘導を行い、他方インドとも経済的な結びつきを強め、両国の分断を図っていたのです。
ところが、豪印両国の対中認識もコロナ禍の広がりを機に一気に変化しました。
まずインドは今年5月以降、中印国境地帯(カシミール地方のラダック)で中国軍と直接対峙する事態に追い込まれました。中国軍の部隊が突如、中印国境紛争地帯に展開してきたと報じられています。数週間にわたって小競り合いが続き、6月15日にはついに軍事衝突。インド軍兵士20人が死亡する事件が起こっています。インドがコロナ対策で足下がぐらついている中、国境紛争地帯に精鋭部隊を送り込んでいるとされる中国の姿勢に、インドもかつてなく危機感を強めました。
一方のオーストラリアは、4月にモリソン首相が演説で「新型コロナの発生源について、国際的な独立した調査が必要だ」と発言。すると中国政府は猛反発し、オーストラリアからの牛肉輸入を停止し、大麦の関税も一挙に80%にまであげて事実上の輸入禁止措置をとりました。周知の通り、オーストラリアの最大の貿易相手は中国です。このオーストラリアの足下を見て北京は強圧をかけたのです。