インド製のスマホは「安かろう悪かろう」
スマートフォンはどうかといえば、Xiaomi(小米)をはじめとしてvivoやOnePlusなどの中国メーカーと、中国メーカー以外では韓国のサムスンが頑張っているくらいです。地場のインド企業ではMicromaxやSpiceといった企業がスマートフォンを出していましたが、近年すっかり安かろう悪かろうのメーカーに成り下がってしまいました。中国メーカーのスマホをボイコットするとなると、サムスンを買うしか選択肢はありません。
昨今の中国のネットサービスを代表するものにシェアサイクルや、フードデリバリーがあります。インドのシェアサイクルは大都市にわずかに展開しているだけですし、フードデリバリーについてもアプリでできること、対応店舗数、配送者数を比べても中国よりも不便です。中国と同様にIT大国の文脈で語られがちなインドですが、スマートフォンにおいてもネットサービスにおいても中国に大きく遅れを取っています。インドの力は未知数ではあるものの、中国をシャットアウトして大きく伸びるかというと、そうは簡単にはいかないとは思っています。
明確な姿勢を中国に伝えることには意味がある
インド専門メディア「バンガロール経済情報」の飯塚竜二氏は分析します。
「今回のインド政府の措置に、中国政府や企業が恐れているものがあるとすれば、インドに他国が追随し、彼らが長年思い描いてきた『世界の覇権』、裏テーマでもある『デジタル植民地化』の実現に支障を来す可能性があることではないでしょうか。今回禁止された59のアプリには、AlibabaやTencent、Baidu、Xiaomiといった中国大手テック企業のアプリも多数含まれています。彼らのビジネスには、膨大なユーザーやデータが欠かせません。
また、インドは中国や米国のアプリ企業にとっては現状、直接的な売上としてではなく、ユーザー数やデータベースで貢献してくれるマーケットと言えます。企業もそれを理解して戦略をとっています。ユーザーやデータが多ければ多いほど、宣伝効果が上がるのはもちろん、活用法の幅も広がり、インド以外の国で売上を伸ばすことにつながりますから。
その一方で中国製品の完全なボイコットは現状では難しいと思います。それはインド政府もよく理解しているはずです。ただ、『インドは怒っているんだぞ』という明確な姿勢を中国に伝えることには意味があります。口先だけの対応は、数十年間にわたって西側諸国からあの手この手で叩かれ続けてきた“打たれ強い”中国には響きません。それは他国と中国のやり取りを見ていてもわかることです。そのため、実際にボイコットが成功するかしないかは別として、中国に対して行動をともなう強いメッセージを送って牽制することは、バランスの取れた中印関係を築く上で必要な行動であると思います」
インドの脱中国は意味がない動きなのかというと、そうでもないのです。技術は現状で不足していても、中国同様10億人以上の人口を抱える市場の底力を武器に、中国に揺さぶりをかける姿勢がありました。日本はその10分の1しかないものの、それでも中国とはお互い切っても切れない国でしょう。イケイケの中国ITの海外進出に抗議をするインドの姿は、今後日本が中国とトラブルが起きたときに参考になる事例となるのです。